宿敵
転売ヤーとは、こちらも読んで字の如く転売を行う集団を指す言葉である。
人気が出そうな商品を買い占め、購入者の需要が高まったところで数倍の値段を付けて売り捌くその犯罪に片脚を突っ込んでいるその行動から、徹夜組とは比べ物にならないくらいに嫌われている存在だ。
彼らが獲物として選定する品は大半がオタクが好むゲームやプラモデルといった嗜好品が大半であり、金の匂いを嗅ぎ付ければ転売ヤーはどこにでも現れる。
少しずつ規制は進んでいるもののその全てを取り締まることは難しく、これまでも大勢の人々が転売ヤーのせいで欲しかった商品を買えずに涙を流すという事例が多発していた。
そして今回、彼らはこのコミフェスに……界人の目の前に姿を現したということである。
「野郎っ! まさかくるめいスペシャルセットを転売するつもりかっ!? そ、それだけは、絶対に許さんっ!!」
転売ヤーにとって、限定品が多く集まるコミフェスは文字通りの宝島だ。
各サークルが出品する同人誌はもちろんだが、企業が販売するグッズもまた彼らにとっては非常に値打ちのある物品といえるだろう。
当然ながら、【CRE8】にも彼らの魔の手は及ぶはずだ。
そして、【CRE8】がこのコミフェスで目玉としている商品といえば……界人が喉から手が出るほどに欲しがっているくるめいスペシャルセットに他ならない。
期待に胸を高鳴らせ、コミフェス限定のグッズを買おうとしていたVtuberファンたちが売り切れの知らせを見て絶望し、更にネット上で推しのグッズが高額で転売されている様を目にして絶望する様子を想像した界人は、込み上げてくる怒りに顔を真っ赤にしていた。
愛する枢と芽衣が転売ヤーたちの汚い欲望に蹂躙されることに憤怒を超えた激憤を覚えた彼は、必死になってそれを押し殺しながら深呼吸を行う。
「ぐぐぐぐ、ぬぅぅぅ……っ! こ、こいつら全員逮捕してしまいたい……! いや、いっそこの場で撃ち抜いて――!」
許されるのならば、国家権力を振りかざしてマナー違反の徹夜組を留置所にぶち込んでしまいたい。
なんだったら銃を持って来て、全員に鉛玉をお見舞いしてやりたいという過激な思想に駆られながらも、それを理性で押し止める界人であったが、転売ヤーに対する怒りは止めようがなかった。
徹夜組の全員が転売ヤーであるとは思っていない。だが、この中には間違いなくコミフェス来場者の楽しみや期待を打ち砕こうとしている者たちがいる。
そして、界人にはそういった悪人をどうにかするための手段を持ち合わせていないのだ。
彼に許されているのは、せめて自分の手でくるめいスペシャルセットを購入し、転売を目論む者たちが1つでも多く商品を入手出来ないようにすることくらいのものである。
「くそ……っ! 俺としたことが、事前準備の品に手錠と拳銃を含めるのを忘れていた……! 冬のコミフェスでは、絶対に持って来てやるからな……!」
今回の失敗(?)から得た教訓を胸に、なんだかとっても物騒な呟きを漏らしながら列に並ぶ界人。
もしも前に並ぶ人々がくるめいスペシャルセットを買おうとしたら、自分の分はないかもしれないななどと考えながら、ただただお目当ての品を手にすることが出来るよう、彼は神に祈り続けるのであった。
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