重いのに浮くんだね、おっぱいって
「うわ~……! てげ広い!! やっほ~っ!!」
「あっ、こらっ!! 先に体を流してから入りなさい!!」
広い、とても広い大浴場の中に響く、スイと天の声。
湯けむりが立ち込めるその場の光景を目にした有栖は、感嘆の息を漏らしながら隣に立つ沙織へと言う。
「本当に広いですね。しかも、私たち以外人がいないだなんて……!」
「貸し切り状態さ~! 運が良かったね~! 面白そうなお風呂がいっぱいあるし、楽しむさ~!」
ジャグジーやサウナ用の水風呂、寝風呂に露天風呂といった様々な種類の風呂が揃っている大浴場が、自分たちだけの貸し切り状態。
そんなシチュエーションに興奮しているスイは、特に大きいメインの風呂に勢いよく飛び込むとそのままお行儀悪くバシャバシャと飛沫を上げながら泳ぎ始める。
「わ~い! 一度でいはんで、おっきなお風呂で泳いでみだがったんだ~!」
「まったく……! 誰か入ってきたらすぐにやめるのよ!」
天は自由奔放なスイに呆れ気味だが、強引に彼女を止めることはしなかった。
他人に迷惑をかけないことを強く言い聞かせる天の姿をまるで母親のようだなと思いながら、有栖もまた彼女たちと同じ大風呂に身を浸らせる。
「ふぅ……温かいなぁ……」
少し熱めのお湯に肩まで体を沈めれば、心地良い熱が全身を包んでくれる。
体中から疲れやコリがじゅわ~っと抜けていくような、完全脱力状態になって甘い吐息を漏らしていた有栖は、すぐ近くに人の気配を感じてそちらへと顔を向けた。
「……やっぱり、膨らみがある。くっそ、有栖ちゃんは私と同じ壁だと思ってたのに……!!」
「は、秤屋さん!? あの、どどど、どうしたんですか!?」
側面から自分のことを血眼になって見つめる天の姿に、びっくり仰天する有栖。
そんな彼女へと更に距離を詰めた天は、両手を伸ばすと有栖の慎ましやかなお胸を揉み始めた。
「ぴえぇっ!? あの、ちょっと!? なな、何を……っ!?」
「ちくしょう! 触ったら違いが丸わかりじゃねえか!! 待って待って待って、AとBってこんなに差があるの!?」
「ま、待ってはこっちの台詞ですよぉ! ひゃんっ!?」
もみもみと不躾に胸を揉んでくる天の手付きに、身を捩らせながら有栖が悶える。
その反応を無視して手を動かし続ける天の表情は般若のようになっており、鬼気迫る表情が強まっていく度に手の動きもまた激しくなっていった。
「あっ、あのっ! も、もうっ、止めてくださ、ひゃううっ!!」
「憎い、憎い……! どうして私だけこんな……うっ!?」
「ほ~ら、もう止めなって! 有栖ちゃんも困ってるよ~!」
「きゃ、喜屋武さん、ありがとうございます……!」
憎悪を滾らせながら有栖の胸を揉み続けていた天であったが、遅れて風呂に入ってきた沙織によってその暴走はようやく止められることとなった。
彼女の憎しみから解放された有栖が感謝の言葉を告げる中、天の手を取った沙織がその手を自分の胸へと運んでから堂々とした態度で言う。
「そんなにおっぱいを揉みたいのなら、私のを揉めばいいさ~! さあさあ! 遠慮せずに揉みまくっていいよ~!!」
「お、おうふ……!? こ、これが強者の余裕というやつ、か……!?」
褐色の双峰へと強引に両手を導かれた天が呆然とした声で呻く。
そのまま、好奇心に負けて沙織の見事な巨乳に触れた彼女は、その瞬間に驚愕の表情を浮かべてわなわなと全身を震わせ始めた。
「な、なに、これ……!? 柔らかいし重いし、これがたらばのたわわなたらばって、コトぉ!?」
下から手で支えられるという、自分の平らな胸では到底不可能なことが可能な沙織の胸の大きさに愕然とし、その柔らかさと重さを実感した天が恐怖に似た感情を抱く。
こうして何も身に着けていない状態で彼女の胸を見てわかったが形も相当に良く、しかも張りも抜群であるこの二つの山は自分も持っているはずのおっぱいと本当に同じものなのかと、ガラガラと自分の中の常識が崩れ去っていく音を聞いた天は、その場に崩れ落ちるようにして湯船に腰を下ろした。
「んふふ~! もういいの~? もっと揉んでもいいんだよ~?」
「い、いえ、もう結構です……ま、参りました……」
「そ~お~? 有栖ちゃんも触る~? ご利益あるかもよ~!!」
「あ、えっと、だだだ、大丈夫、です……!!」
完全に自信を失って精神崩壊状態になっている天の様子から、沙織の胸の凄まじさを感じ取った有栖がぶんぶんと首を振る。
大きなおっぱいとはかくも恐ろしい魔力を持つものなのかと、世の男性諸君はその恐ろしさを知らないからこそ、あそこまで巨乳に憧れるんだろうなと考えていた有栖は、湯船に浸かった沙織の胸がぷかぷかと浮かぶ様を目にして、その思いを更に強めた。
「う、噂には聞いてたけど、おっぱいって本当に浮くんだ……!」
「私たちには縁のない話ですもんね……はぁ……」
「あはははは! 結構邪魔なんだけどね~! 押さえてないと浮かぶから、ゆっくりお風呂に入りたい時には面倒なんさ~!」
自分たちとは無縁の現象と苦労を楽し気に語る沙織の言葉に気落ちする有栖と天。
しかし、そんな二人……というより、有栖をじっと見つめていた沙織は、不意にこんなことを彼女へと言ってきた。
「有栖ちゃん、多分だけどおっぱい大きくなってるよ。もう少しでCカップになるくらいにはなってる、かも……?」
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