・須藤澪の場合
【汚部屋の掃除中にこのページを見つけてしまったそこのあなた! これから暫く、あなたは異性の尻に敷かれる日々を送ることになるでしょう! 幸せかどうかはあなた次第ですが、ラッキースケベだと思うのが吉だと思いますよ! ラッキーパーソンは小柄な女性! あなたを災難から遠ざけてくれますよ! ただし、その人物が年上である場合は要注意! とんでもない修羅場が発生する可能性があります! やっぱり時代は同い年の恋人だな!!】
「……なんだ、これ?」
零が占い通りに女性の尻に敷かれたり(物理)、修羅場に巻き込まれたりしているのと同じころ、彼が読んだ雑誌を部屋の掃除中に発見した男がいた。
部屋に缶詰めになって仕事をしていた恋人に代わって彼女の部屋の片付けをしていたその男性……狩栖優人は、怪訝な表情を浮かべながら見つけた雑誌を覗き込む。
発行日付を見るに、そこそこ前の雑誌であるようだ。
血液型でも星座でもない、発見したタイミングで結果を占うだなんて珍しいを通り越して普通に謎だなと思いながら、手にしたそれを片付けようとした優人の背後から、明るい声が響く。
「なに見てんの~? なんか面白いものでもあった?」
声が聞こえてくると共に、柔らかい何かが背中に押し当てられた。
むにゅり、と自身の背中に当たって形を変えるそれの感触から、「こいつ、服は着てるけど下着は着けてないな」と瞬時に理解した優人は、ため息を吐いてから自分に圧し掛かる恋人へと言葉を返す。
「シャワー浴びたのなら、普通に服を着なよ。なんでそんな恰好してるのさ」
「ん~? わざわざ彼女のことを心配して様子を見に来てくれた大好きな彼氏へのサービスのため、かにゃ~?」
ニコニコと笑いながらそう答えたのは、この家の主にして優人の恋人である須藤澪だ。
ほんのりと体から石鹸の香りを漂わせている彼女は、大きめのシャツ一枚だけという中々に攻めた格好を優人へと披露している。
「……それ、僕のだよね? どうして着てるの?」
「言ったじゃん、彼氏へのサービスだって! 彼シャツだよ、彼シャツ! なんかこう、男としてはぐっと来るものがあるんじゃないの!?」
「……否定はしないよ。かなりそそるものはある」
よっしゃ、と優人の返事を聞いてガッツポーズを取る澪。
どうしてそこまで喜ぶかなと思いながらも男性としての性に逆らえない優人は、自分のシャツを着た彼女へと視線を向け、その姿をまじまじと見つめる。
以前、この部屋に泊まった時に置いていったシンプルな白のワイシャツ。
それを着ている澪は、谷間を強調するかのように胸のボタンを留めないでいる。
おそらくは単純にあのたわわな胸のせいでボタンを留めることができなかったんだろうなと思いながら、今にもこぼれ落ちてしまいそうな大きな二つの山から優人が視線を逸らせば、それに気づいていたであろう澪が手が飛び出ていない袖をばたつかせながら楽しそうに言ってきた。
「ほら! 萌え袖だよ! これもかわいいでしょ?」
「まあね。うん、いいんじゃない」
ぱたぱたと余っている袖を振り、かわいらしく笑ってみせる澪。
発育と愛嬌の暴力だよなと思いつつ小さく笑みをこぼした優人は、呆れた口調で彼女へと言う。
「サービスはありがたいけど、この時期にそんな格好してたら寒いんじゃないの? 暖房もついてないしさ」
「うん、ちょっと寒い! だからゆーくん、温めて♡」
「はいはい、今は掃除中だからそっちを優先しようね」
「ぶ~……! 折角彼女がこんなえっちな格好してるんだから、そこは色々ほっぽって襲うべきなんじゃないですかね? どう思います、優人さん?」
ハートマークを乱舞させながらの甘い誘い文句をさらっとスルーした優人へと、文句を垂れる澪。
確かにこの状況で手を出さないというのもおかしな話なのだろうが、掃除を優先するだけであって何もしないとは言っていないことにも気付いてほしいところである。
ただ、やはりここまでやっておいてすごすごと撤退するつもりなど澪にはないのだろう。
彼女としてのプライドと沽券にかけて、絶対にその気にさせてやるぞとばかりに笑みを浮かべた澪は、わざとらしい口調で優人へと言う。
「わかりましたよ~。頭の固いゆーくんの言うことに従って、お掃除を優先しますよ~だ。でもその前に暖房つけなきゃ。リモコン、どこにやったっけ……?」
そう言いながら、前屈みになって床に落ちているかもしれないエアコンのリモコンを澪が探し始めれば、留まっていないシャツの胸元から谷間だけでなく全体像が見えそうになってしまう。
危うく綺麗な半球型のそれがお目見えしそうになったところでスムーズに視線を逸らした優人が再び掃除へと没頭する中、澪は部屋中を歩き回ってリモコンを探すふりをし続ける。
「ないな~。こっちの方かな~?」
「………」
「あっれ~? こっちにはないな~? じゃあ、こっちの方?」
「………」
「やっぱりこっちにもないや~! やっぱりあっちにあったような気がするんだけどな~?」
「………」
ふらふらと床を見つめる前傾姿勢になった澪が部屋を歩き回りながらそんなことを言う。
彼女が自分の前に来た途端、反対方向を向くという行為を何度も繰り返していた優人が、視界の端に映る彼女の体勢がただの前傾姿勢から四つん這いにも近しいお尻をこちらに突き出す格好になっていることに気が付いてため息を吐く中、その真正面に立った澪がいたずらっぽい笑みを浮かべながら問いかける。
「どしたの~、優人~? さっきからあたしの方を見ないようにしてるけど、何かあった~?」
「……君ね、シャツ一枚だけの格好でお尻をこっちに向けたら、色々丸見えになるでしょ。僕は気を遣って視線を逸らしてるんだけど?」
「いいじゃん、別に。もう何度も見たものなんだから。それとも、今は見れない理由でもあるの? 例えば……我慢できなくなっちゃうから、とか?」
やはりわざとだったかと、胸にも負けないボリュームを誇る尻をこちらに見せつけようとしていた澪の行動を思い返した優人が口を真一文字に結ぶ。
その無言が肯定を示していることを知っている澪は、くすくすと蠱惑的に笑うと……そっと、優人の耳元に顔を寄せて甘く囁いてみせた。
「図星だ♡ まあ、澪ちゃんにはぜ~んぶわかってたけどね~……♡ さっきの雑誌にもお尻がどうこうって書いてあったし、それでなくてもゆーくんはあたしのお尻が大好きなんだからさ……♡」
「君の体が好きってわけじゃないよ。僕が好きなのは、君の全部」
「にゃはっ♡ 嬉しいこと言ってくれちゃって……♡ もっとサービスしたくなっちゃうじゃん……♡」
言うが早いが、澪がゆっくりと優人の唇へと自身の唇を重ねてきた。
ふっくらと膨らんだ瑞々しいリップが開き、その中に秘められていた小さな舌がちろちろと存在を主張し始め、優人の心をノックする。
十秒から二十秒、そこそこ長めの大人のキスをした二人が唇を離せば、澪は完全にその気になった表情を浮かべ、瞳にも明るいハートマークが浮かんでいた。
これはもうだめだな……と、掃除を後回しにすることがほぼ確定的になった優人が頭の中で予定を再調整し始める中、今度は先ほどとは逆側の耳に唇を寄せた澪が、ふぅ……と甘く蕩ける吐息を吹きかけた後でこう囁く。
「ふふっ♡ 今日は女の子のお尻に敷かれる日なんだよね? じゃあ、今回はあたしが上になっちゃおうかな……♡ いっぱいサービスしてあげるから期待しててね、優人♡」
「はぁ~……っ」
その気になっているのは澪だけではないということを、他の誰でもない優人が理解していた。
最初の段階で彼女にペースを握られたのがまずかったなと思いつつも、順番が前後しただけかと開き直った彼は盛大なため息を一つ吐いた後で、素直に白旗を上げる。
「……わかったよ、僕の負けだ。寝室、行こうか」
「わ~いっ! ベッドの周りだけは綺麗だから、そこは安心してくださいな! ささっ! お姫様抱っこ、よろよろ~!」
どこまでも自分を翻弄するお姫さまが腕の中に飛び込んでくる感触に、苦笑を浮かべる優人。
あの占いのせいで面倒なことになったなと考える彼であったが、その表情はどこからどう見ても喜びの感情に染まっていた。
※須藤澪の特徴
元から大きかったが最近また大きくなった。理由はお察し。
結構むちっとしている。本人曰く、彼氏がそういうのが好みらしい。(彼氏はノーコメント)
これまた本人曰く、開発されるのもやぶさかではないらしい。(彼氏はノーコメント)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます