She Eats Dinner With Him
険しい表情をしているが、言っていることはとても優しい零の言葉に申し訳なさを感じつつ、目の前にある料理の数々を見つめる有栖。
ほかほかと湯気を立てる炊き立てのお米や出来立ての味噌汁を目の当たりにしながら、こんな食事は何時ぶりだろうかと思い返した彼女は、自身の乱れた食生活にちょっとしたショックを受けていた。
確かに零の言う通り、こんな食生活を続けていれば、近いうちにそのツケが回ってくることは明白だろう。
深夜に長時間配信を行ったりもするVtuberという職業に就いていれば尚更の話で、健康面に気を遣うのもまた社会人としての務めの1つだ。
そういった部分に注意を払えていなかったな、と猛省した有栖は、零に見つめられながら箸を手に取る。
両手を合わせ、瞳を閉じて、軽い会釈をするように頭を下げた彼女は、心からの感謝を込めて零へと言った。
「……いただきます」
「はい、召し上がれ」
そこでようやく表情を和らげてくれた零が見守る中、有栖が白米を一口頬張る。
コンビニ弁当とは全く違う、柔らかくて温かいその食感と甘味が想像以上に味覚に染み渡ったことに、彼女は目を見開いた。
豆腐とわかめの味噌汁も、塩味と出汁のうま味がきっちりと利いていてインスタントとは全く味が違う。
主菜の生姜焼きもタレがしっかりと染み込んでおり、白米と合わせるといくらでも食べられそうなくらいの美味しさだ。
「どう? 美味しい?」
「うんっ! 凄く美味しいよ、零くん!!」
「そりゃあよかった。お代わりも用意してあるから、遠慮せずに言ってね」
言葉よりも、表情よりも、せわしない動きで箸を動かして料理を食べるその姿が、有栖の本心を物語っている。
どうやら彼女は自分が作った食事を気に入ってくれたようだと、ほっと一安心した零がまるで母親のような慈愛に満ちた目で食事を取る有栖を見守る中、1杯目の茶碗を空にした有栖が、少し恥ずかしそうな顔を浮かべながら彼へと言う。
「あ、あの……零くんも、一緒に食べようよ。私だけ食べてるのは申し訳ないし、見られてるのも恥ずかしいし……」
「ん? ああ、そっか。そうだね。すぐに俺の分も用意するよ」
空になった茶碗を受け取りながら、キッチンへと向かった零がもう1つの茶碗を食器棚から取り出す。
有栖の分と、自分の分と……茶碗に白米を盛りつけ、味噌汁も主菜も新たに用意して、それらを手に有栖の下に戻った零は、彼女の真向かいに座ると軽く息を吐いた。
「……なんか、久々だな。誰かと一緒にこうやって晩御飯を食べるのは。家では俺は家族から除け者にされてたから、いつも1人で自分の分の飯だけ作って食べてたっけなぁ……」
「私も、本当に久しぶり。ずっと引きこもりだったし、お母さんも私と一緒にご飯なんて食べたくないみたいだったから……何年ぶりだろう? こうやって、誰かと一緒に晩御飯を食べるの……」
普段は1人でぽつんと夜を過ごし、食事も1人で食べることが常だった2人が、それぞれの心境を吐露する。
自身の傷を曝け出し、お互いに家族に苦しめられた過去を持つことを明かし合った自分たちだからこそ共有出来るその感覚に笑い合った零と有栖は、お互いに見つめ合いながら両手を合わせると、相手の存在を確かめるようにしながら同じ言葉を口にした。
「「……いただきます」」
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