She is Dinner?
「えっ? へぇっ?」
今まで見たことのない顔を浮かべ、自分を射貫くような視線を向けてくる零の言葉を聞いた瞬間、有栖の喉から間の抜けた声が漏れた。
両肩を掴む強い力と、すぐ近くにある彼の顔に緊張感を一気に高めた有栖が混乱して言葉を失う中、零は続けてこんなことを言ってくる。
「あんなものを見せられたら、俺もう我慢出来ないよ……有栖さんには悪いけど、俺の言うことに従ってもらう」
「あ、あぅ、ま、待って……そんな、急にそんなことを言われても――」
「確かに急だけど、こっちの準備は出来てるんだ。絶対に逃がさないからね」
「ふ、ふぁぁ……っ!?」
先程、自分の不手際で下着を見せてしまった時の零の顔を思い出すと共に、今の彼の言葉の意味を想像した有栖が顔を真っ赤に染める。
それはつまり、そういうことなのだろうか? 無防備で考え無しの自分の行動が、零の眠れる本能に火をつけてしまったということなのだろうか?
確かに若い男女が一晩2人きりだなんて、相当に理性が強くなければ間違いがあってもおかしくない状況だ。
そんな状況下でこれから履く下着を見せつけられた零が、男としての欲望を掻き立てられたとしても何もおかしな話ではない。
自分の責任といえばその通りなのだが……やはり、事が急過ぎた。
羞恥と怯えを半々としながら、そこまで詳しくない男女のあれやこれやの事情を頭の中で思い返した有栖が息を飲み、顔を真っ赤にしていると――
「取り合えず、こっち。もう用意してあるから」
「あ、ぅ……」
ぐいっと、零に腕を引っ張られた有栖は抵抗せずに彼に従った。
両目をぎゅっと閉じ、思ったよりも乱暴に引っ張るでもない零の雰囲気にちょっとだけ気持ちを和らげながら、それでもやはり高まる緊張感に何も出来ずにいる有栖。
せめて、優しくしてもらえたら嬉しいな……とか、薫子には報告すべきなのかな……などと考えを巡らせる彼女は、零に腕を引かれるままに部屋を進み、そして――
「……はい、ここ座って。そんで、少しだけ待ってて」
「ふぇ……?」
用意されていた椅子に座らされると、1人放置される羽目になった。
ベッドか布団にでも引き摺り込まれるとでも思っていた有栖が事の異変に気付き、何かがおかしいなと考え始める中、零はそんな彼女の前に次々と用意してあった料理を置いていく。
「確認だけど、有栖さんってアレルギーとかで食べられないものとかないよね? 出来る限りそういう不安がない奴を選んだつもりなんだけど、なにかあったら言って」
「あ、え、えっと、特にない、です……」
「そう、よかった。はい、冷めないうちに召し上がれ」
オレンジ色のランチョンマットの上に白米をこんもりと盛った茶碗が、わかめと豆腐を具材とした味噌汁を注いだ汁椀が、そして食欲をそそる匂いを放つ豚の生姜焼きと付け合わせのキャベツの千切りを載せた平皿が、どんどん置かれていく。
実に健康的で美味しそうな夕ご飯が自分の前に用意されたことに驚きつつ、未だに状況が理解出来ない有栖が目の前の料理と零の顔を交互に見比べてみせれば、若干不機嫌そうな……というより、怒っているような顔をした彼が、大きな溜息を吐くと共に彼女の荷物から零れていたある物をテーブルの上に置いて、言う。
「あのねぇ……晩御飯を用意してきたって、こんなカップラーメンだけで十分なわけないでしょ? まさかとは思うけど、有栖さんって自炊せずにインスタント物とかコンビニ弁当で食事を済ませてるわけじゃないよね?」
「えっ? あ、え、ええっと……」
「……正直に答えなさい。1週間のうち、何度カップラーメンで食事を済ませてるのかな?」
「あぅ、えっと……ほぼ毎日、です……」
妙な剣幕を放つ零の雰囲気に圧された有栖が正直に彼の質問に答えてみせれば、彼は更に放つ怒気を強めた。
明らかに怒っている様子の零の姿に小さく息を飲んだ有栖は、続く彼からのお説教を身を縮ませながら聞く羽目になってしまう。
「有栖さ~ん……? そんな食生活で健康を保っていられると本気で思ってるのかな~? ただでさえ生活が不規則になりがちなんだから、せめて食べるものくらいは気を遣わないと駄目でしょ? 家の外から出て、運動もしないんだからさぁ……」
「ごごご、ごめん、なさい……私、料理が出来ないから、ついつい楽なインスタントに頼っちゃって……」
「だとしても毎日カップラーメンはやり過ぎ。今は若いからいいけど、そんな食生活してたらこれからどんどん体調がおかしくなっていくと思うよ。今すぐにとは言わないけど、せめて簡単な料理は作れるようにならないと」
「は、はい……」
ジェットコースターばりの気分の急降下を味わう有栖は、先とはまた別の意味での緊張感を抱きながら零からのお説教を聞いていた。
自分のことを真剣に心配してくれただけの零に対して、勝手な思い込みで不埒な真似を働こうとしていると考えてしまった自分の勘違いを恥じると共に、それをそこまで拒否する気持ちにならなかったことへの恥ずかしさも感じる有栖。
それに加えて、適当な食生活まで彼にバレてしまった彼女は、諸々の羞恥にただでさえ小さな体を更に小さくしながら、零からのご尤もなお叱りの言葉に頷き続けている。
「晩御飯に
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