拠点が成長したら、盗賊(三下)がやって来た!
「ふっはっはっはっは! デカくなったぞ~っ! こいつはもう、立派な拠点だろ!」
移動用のラクダが複数頭と、それを飼うための小屋が一件。
寝床として機能している家の隣には薬や石油の精製を行うための施設が建てられており、各施設に通じる道も整備されている。
水道もしっかりと家々にむけて引かれてある、住みやすい集落と化した拠点をラクダに乗りながら一望した枢は、かなりの成長を遂げた自分の住処に満足気に頷きながら穂香と会話をしていった。
「随分と使いやすく、色んなことができる拠点になったっすね! 武器とかも作れるようになりましたし、狩りが楽になりましたよ!」
「ふっふっふ……! これがお姉さんの知識力ってやつよ! あ、サボテンちょっと貰うわね。薬を精製しておくわ」
「あざっす! こう考えると、人手が増えたってのが一番デカい収穫かもしんないっすね……」
一人で向かう先を決められずにただ生き延びていくよりも、知識を持つ誰かに協力してもらった方が伸びは早い。
その人物と作業を分担すれば効率もアップするし、それは即ち拠点成長速度の上昇に繋がる。いいことづくめだ。
穂香には悪いが、彼女がルピアにキルされたお陰でここに飛ばされたと考えると、枢にとっては幸運だった。
順調に巨大化し、成長していく拠点の様子を眺め終わった後、愛用のラクダに跨って必要なアイテムの収集に向かった零は、上機嫌にリスナーたちと会話しながら作業を進めていく。
「やっぱ面白いな、このゲーム! コツコツ何かをやるのも俺の性に合ってるし、サーバーが閉じるまでどんだけこの拠点をデカくできるか挑戦するのも面白そうだよな~!」
【いいかもね! 楽しそう!】
【おいでよ、炎上の村】
【枢村長による砂漠再生生活が今、幕を開ける!】
「おしおし、サボテンと鉱石発見! さっさと集めて帰るぞ~、ラク太郎!」
【愛用のラクダちゃんに名前つけてるくるるんかわいい】
【男の子出てるわ~】
【ここに芽衣ちゃんがいれば最高だが、見知らぬVと出会ってわちゃわちゃするくるるんを見たいといえば見たいから、なんでもOKです!】
すっかりお気に入りになったラクダに話しかけながら、彼に水をあげながら、食料や医療品になるアイテムを収集していく枢。
配信開始から数時間、すっかりほのぼのムードになった空気の中、そんな彼の楽しいゲーム生活をリスナーたちはのんびりと見守っていたのだが――?
「……を、……すぞ~! ……うぞ~っ!」
「あん……? なんか、物凄く聞き覚えのある声が聞こえてくるような……?」
遠くから、やや耳障りな声が聞こえてくる。
その声の主の顔が頭の中でちらちらと出たり引っ込んだりする状況に渋い顔を浮かべていた枢は、段々と大きくなるにつれてはっきりと聞こえるようになったその声を聞いて、口の端を吊り上げた。
「見かけた奴は、ぶっ殺すぞ~っ! 物資を奪って、奴隷にしちゃうぞ~っ!!」
「なんつー物騒な歌を歌ってんだ!? っていうか、この声は……!!」
「あ? 今、腹立たしい声が聞こえたな~? そこにいんのか? 蛇道枢!?」
ブロンッ、と大きなエンジン音が響く。
砂の山を越え、唐突に姿を現した四輪駆動のバギー車とその運転手の姿を目にした枢は、げげっという表情を浮かべながら大声で叫んだ。
「愛鈴!? お前、こんなところで何してやがる!?」
「知れたこと! 我らが親分である夕張ルピアさまの命を受け、砂漠地方の調査と奴隷の探索に来たのよ!」
【やってることが完全に三下で草】
【ラブリー、今のお前、最高に輝いてるぞ……!】
【こんなにも略奪宣言が似合う女Vがいるとは、たまげたなあ】
ボウガンを片手に、今の枢よりもはるかに文明が進んだ乗り物に乗って凶悪な笑みを浮かべる愛鈴。
げひゃひゃひゃという完全に悪役になり切って笑う(というより素が出ている)彼女は、武器の狙いを枢へと定めると狂ったような声で叫ぶ。
「ここで会ったが百年目! あんたの持ってるアイテム全部寄越しなさい!! あと、拠点のアイテムも全部貰っていくから、覚悟しなさい!」
「ざっけんな! 俺の数時間の成果をそう簡単に奪われてたまるかよ!! 逃げるぞ、ラク太郎!」
矢を浴びせ掛けてくる愛鈴にそう言い捨て、大慌てで愛馬ならぬ愛ラクダに飛び乗った枢が全速力で拠点へと逃げ始める。
その背を車で追う愛鈴だが、砂にタイヤが取られているせいか思ったように速度が出ず、逆に砂地では速度が上がるラクダに中々追いつけずにいるようだ。
「こんのぉ! 待ちなさい、炎上芸人!! あんたの持ってるもん、全て寄越せえ!!」
「待てと言われて待つ馬鹿がいるかよお! ぜってぇ逃げ切ってやる!!」
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