コツコツと、作業タイムです

「とりあえずだけど、何をするにもまずは移動用の足が必要ね。資材や道具が集まって文明レベルが上がれば車とかが使えるようになるけど、今はまだ無理な話だし……ここは無難に動物を捕まえてきましょう」


「おお、馬とかっすね! 車とかも乗れるんだ……!」


「砂漠の場合は馬じゃなくてラクダだけどね。でも、この子たちはかなり有用よ。馬とか普通の車みたいな乗り物は砂漠では移動速度にデバフがかかっちゃうんだけど、ラクダはそういうの関係ないし、食事も水だけで済むからオアシス付近に放置してるだけでどうにかなるしね」


「へぇ~、ためになるなあ……」


 というわけで、指南役に穂香を迎えた枢は、初仕事として砂漠を闊歩するラクダの捕獲に取り掛かることになった。

 お弁当にサボテンステーキと飲み水を準備してから家を出た彼は、少し歩いたところで一頭のラクダを発見すると穂香にそのことを報告する。


「居ました! ちなみに捕獲ってどうするんですか?」


「近付いたら乗る、ってコマンドが出るからそれに従うだけよ。別に難しいことじゃあないわ」


 言われた通りにラクダへと近付いた枢が表示されたコマンドに従ってキーボードを操作してみれば、あっさりとラクダの上に乗ることができた。

 そのまま初めての騎乗を楽しみ、歩くよりも随分と早いラクダでの移動を堪能した彼は、乗り物の素晴らしさに感嘆しながら何度も頷き続ける。


「いや、楽っすわ。移動手段ができると遠出もしやすくなりますし、こういうのってマジで大事っすよね」


「そうね。特に広い砂漠では乗り物の確保が本当に重要になってくるし、逆に移動が楽になれば平地や草原じゃあ確保できない色んな資源を集められて楽しくなると思うわよ」


【砂漠の資源ってなんだ? 砂くらいしか思いつかないんだが……】

【代表的なのは原油。こいつを精製するとガソリンになって、車とかの燃料になる。後々大量に必要になるから、くるるんが油田を作れたらこのゲームの覇者になる可能性もある】

【鉄もそこそこ確保しやすいから、ある程度の基盤が整うと一気に文明レベルがバチ上がるのも強みかな】

【問題は木がほとんどないから、初期のツールが作りにくいところ。そこをどうにかできれば、割と文明の進歩は早い気がする】

【ほへ~……! 有識者兄貴たちありがとナス!】


 穂香から指南を受けつつ、コメント欄でリスナーたちと色々勉強しつつ、確保したラクダに乗って一度拠点へと帰還する枢。

 そこで待っていた穂香は、戻ってきた彼へと用意してあったものを差し出し、言った。


「はい、草で作ったロープよ。これで一度に複数頭のラクダを捕まえられるから、役立ててちょうだい」


「おおっ、あざっす!!」


「目標としては五頭くらいでいいかしら? それだけあれば十分だと思うわ。枢くんがラクダを捕まえている間に私は余った木材で柵とか生活に役立つ物を作っておくから、そっちの作業はよろしくね」


「は~い! 了解で~す!」


【やるべきことを指示してくれる人がいると楽だな。ラクダだけに】

【↑○せ。慈悲はない】

【↑審議拒否】

【火刑に処せ】

【ついでに枢も燃やせ】


「……なんでリスナーの下らないダジャレのせいで俺が燃やされる羽目になんのかなぁ……? マジで意味わかんねえよなあ……」


 とまあ、そんなふうに波乱(?)もありつつ、順調に穂香と共に拠点の拡張を続けていく枢は、元来のセンスの高さを遺憾なく発揮して着々と成果を挙げ続けた。

 穂香の方も細やかに、的確に、効率よく指示を出すことで時間を無駄にせず、配信のことも忘れずに会話もテンポよく行ってくれるお陰で雰囲気も実に良い状態になっている。


「……質問なんですけど、緑縞さんは自分用の家とか作らないんですか? 砂岩なら山ほど余ってるんで、そうした方がいいんじゃ……?」


「え? 枢くんは私との同棲生活に不満があるの!? 私一度、着替えてる最中にばったり出くわすラッキースケベハプニングとかやってみたかったんだけど!」


「よし、あんたがウチのかに座と似た感じの人間だってことがわかったぞ。気軽に人を燃やしにかからないでくれません?」


【たら姉よりかは火力控えめ、胸のサイズもやや控えめになっております】

【控えめの火力だろうが着火したら俺たちが炎に育てるから意味ねえんだよなあ】

【速報・蛇道枢、嫁を放置して巨乳なお姉さんと同棲生活を始める! 明日の朝刊の見出しは決まったな!】


「う~ん、不穏! マジで燃やされそうで怖いんだが?」


「ふふふ……! 冗談はさておき、今は資材とかを一か所に集めておいた方が何かと便利だし、わざわざ家を二つ作る必要もないでしょう。その辺のことはおいおい、ってことで、ね?」


 基本的な性格は穏やかで、時折お茶目さを見せる穂香と枢は結構相性がいいようだ。

 そもそも、お互いが人付き合いが上手いタイプである二人はいい感じのラインで絡むことができており、リスナーたちも不快にならず配信を視聴することができている。


 そんなこんなでそこそこの時間が経った頃、穂香の指示に従って素材の収集や作業を続けた結果、枢の拠点は大きく様変わりしていた。

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