Today Tomorrow Day After Tomorrow
――そして、数時間後……
「ん~っ……! お腹空いたなぁ……」
窓ガラスの張替えが終わり、清掃業者によって雨に濡れた部屋の掃除も終わった自宅にて、大きく伸びをした有栖が1人呟く。
朝から結構な量のホットケーキを食べて満腹だったため、昼食を抜いたまま夜まで過ごしたのだが……流石にそろそろ空腹が堪えてくる時間帯のようだ。
配信まではまだ時間があるし、それまでにしっかりと腹ごしらえをしなくてはいけないとはわかっているのだが、そこは家事能力皆無の有栖である。
冷蔵庫を開けても目ぼしい食べ物は冷凍食品くらいしかなく、料理をする材料のざの字も見当たらない始末だ。
というわけで、彼女はいつも通りに伝家の宝刀であるカップラーメンを取り出すべく、リビングの棚を開けたわけだが……そこでふと、昨晩の零の言葉を思い出し、動きを止める。
「食生活、どうにかしないとな……」
このまま不健康な食生活をしていては体に悪いだろうし、これからどんどんそういった不摂生は外見に表れるだろう。
毎日のようにカップラーメンを貪った結果、肌はガサガサで体型もでぶっちょになってしまったとしたら、零に呆れられると共に嫌われてしまうかもしれない。
折角、彼のお陰でいい機会が出来たのだし……ここらで少し、意識を切り替えた方がいいのではないだろうか?
せめてカップラーメンを週3回……いや、週5回程度にまで減らした方が……と、変わっているようで根本的な部分はなにも変わらない改革案を考え始めた有栖の耳に、玄関のチャイムの音が響く。
突然の来訪者に驚きつつもインターホンを確認した彼女は、部屋の前に立つ零の姿を見て、その驚きの感情を強めつつ彼へと問いかけた。
「れ、零くん? どうしたの、こんな時間に……?」
『あ、ああ、ごめん。家の片付けとかで大変だったし、今日の晩御飯に困ってるんじゃないかって思って……カレー、持ってきた』
そう言いながらカメラの前へとタッパーを見せつける零。
やや気まずそうながらも彼が自分を気遣ってくれたことを喜んだ有栖は、それと同時にまるで母親のような零の行動にちょっとしたおかしさを覚え、くすくすと笑いながら言った。
「ありがとう! 今、玄関を開けるね!」
小走りで玄関へと向かい、鍵とチェーンを外して零を迎え入れる有栖。
ドアの向こう側に立っていた彼は少しぎこちない笑顔を浮かべていたが、楽しそうな有栖の笑顔を見て、多少は緊張感を解せたようだ。
「これ! 容器そのままでチン出来るから、ご飯だけ炊いて好きな時間に食べて! そんじゃ、俺はこれで――」
「あっ! ちょっと待って、零くん! あ、あの……」
押し付けるようにして有栖に容器を手渡して立ち去ろうとした零が、その背に飛んできた声に足を止めて振り返る。
受け取ったタッパーを両手で持ちながら、今度は彼女の方が多少の気まずさを感じさせる笑みを浮かべながら……有栖は、ちょっとした驚きの質問を彼へと口にした。
「えっと……ご飯って、どうやって炊くの?」
「……はい? ご飯の炊き方、知らないの? 炊飯器とか、家に無いの!?」
「お、お恥ずかしながら、そういったものはなくて……」
「……俺が思ってたよりも有栖さんの食生活は深刻な問題だなぁ。まさか、主食の用意からとは……」
「あ、あははははは……ごめんなさい……」
おかずとか、汁物とかの問題ではなく、主食である米の炊き方すら知らない有栖の料理知識に頭を抱えた零は、大きな溜息を吐いた後で彼女の顔を見やった。
びくり、と娘を叱る際の母親のような顔をしている零の表情に背筋を震わせた有栖であったが、彼は呆れながらも有栖へと温かい言葉を口にする。
「……俺の家、来る? カレーは多めに用意しといたし、米も今から炊くから、俺んちで一緒に食べようか?」
「う、うんっ!!」
ぱあっと明るい笑みを浮かべ、零からの誘いをありがたく受けた有栖は、そのまま彼の背に続いて彼の部屋へと向かった。
1度も2度も同じだろうと、特に零の部屋に上がることへの忌避感というものを抱かなくなった有栖は、彼と談笑しながら社員寮を歩いていく。
「明日、薫子さんに車出してもらって調理器具を買ってきな。炊飯器と鍋とフライパンくらいは家になきゃマズいって」
「そ、そうかな……? 一応、電気ポットはあるんだけど……」
「……カップラーメンを作る用の?」
「あぅ……」
何もかもを見透かされた恥ずかしさに小さく呻いて俯く有栖の反応に苦笑する零。
まったく、この可愛らしい同僚は本当に手間がかかると、呆れよりも愛らしさが先に来る有栖の様子に小さく鼻を鳴らした零は、暫くは食生活の面倒を見てあげようと心に決めるのであった。
――――――――――
タイトルは「今日も明日も明後日も」、的なニュアンスとして受け取ってください!
このお話から源田界人初登場回の配信に繋がる……といった感じですね。
取り合えず、これで仕上げたけどボツにした2つの短編の投稿は終わりました。
暫く間が空いてしまうと思いますが、こんな感じのお話をちょくちょく投稿していくと思いますので、よろしければフォローをお願いします!
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