焦燥



「ぐっ……!? こいつら、あの後も転売用のグッズや同人誌を買い集めていやがったのか!」


 他の呟きを検索した界人は、あの転売ヤーたちのフリマサイトでのアカウントを特定したという呟きを発見し、そのURLをクリックする。

 そこに表示されたのは、コミフェスの限定グッズや同人誌たちが大量に出品されているという報告であった。


 くるめいスペシャルセットだけでも10個ほど、他の事務所のVtuberグッズや同人誌を含めれば、50はありそうな出品数を目にした界人が不快感に顔を顰める。

 そして、その値段が通常価格の数倍の価格を付けられていることを見て取った彼は、膨れ上がった怒りに手にしているスマートフォンを投げつけたくなる衝動に駆られてしまった。


「なんだよこれ!? しかも、シークレットになってたポスターの絵も公開されてるじゃないか!!」


 物に罪はないと衝動的な行動を堪えた界人であったが、更に彼らの出品内容を確認すると再び怒りの炎を再燃させてしまう。

 なんと、くるめいスペシャルセットはそのままの内容で転売されているだけでなく、その中身であるグッズをバラで販売しているものもあったのだ。


 その結果、運営が隠していた枢と芽衣のウェディングポスターも大勢の人たちの前に公開されており……これがまた、大勢の人たちの怒りを買っていた。


【あなたたちのせいで欲しかったグッズが買えませんでした。こんな真似は止めてください】

【なんで購入者だけしかわからないグッズの内容をバラすんだよ!? お陰で余計なネタバレ喰らっちまったじゃねえか!】

【金儲けのために迷惑振り撒く転売ヤーは〇ね】


 再びSNSアカウントを確認してみれば、先の写真を添付した投稿には大量のコメントが届いており、完全に炎上状態になっている様が界人の目に映った。

 アカウントも特定されているし、こんな挑発的な行動を取って敵を増やしたのだから、あとはファンたちが彼らから転売品を買わなければ制裁は完了する……のだが、そう話が単純ではないということも界人は理解している。


 くるめいスペシャルセットをはじめとした彼らが出品しているグッズや同人誌は、コミフェスでしか手に入らない貴重な品物だ。

 再販が確定している物やそこまで貴重とは思えない物ならまだしも、ここでしか手に入らないと銘打たれているグッズというのはどうしても欲しくなってしまうというのが人間の性というものである。


 確かに今は、転売ヤーに対する怒りの炎が燃え上がっており、彼らから商品を買うものかという意見が一般的だろう。

 だがしかし、今現在もこのフリマサイトや写真を見ている者たちの中にはどんな手段を使ってでも推したちのグッズが欲しいと考える人が存在していて、そういった者たちが騒ぎが治まったタイミングでこの転売品に手を出そうとしていることは界人もわかっている。


 文字通りの炎上商法。取り合えず名前を売って、大勢の人たちに注目され、その大半から罵声や怒りの言葉を浴びせかけられたとしても……極少数の商品を欲しがる者たちの目に自分たちの存在が止まればそれでいい。

 元より、転売などという行為に手を出している恥知らずな人間たちにとっては、この程度の炎上など屁でもないのだろう。


 金を稼ぐ……その目的だけを重視し、迷惑と悲しみを振り撒く転売ヤーたちへの怒りを燃え上がらせる界人は、同時に抱いた不安を確かめるように【CRE8】や枢たちのSNS公式アカウントを確認する。

 そして、そこで予想通りのコメントが寄せられていることを見て、頭を抱えたくなるような気分に襲われた。


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