Friend
「沙織~……! あんた、本当にあんたって奴は……!」
「はいはい、わかったわかった。李衣菜ちゃんも大概甘えん坊さんだよね~!」
「だ~れが甘えん坊よ~! 大体あんたって奴はねぇ……ちょっと、話聞いてんの!?」
一方その頃、トイレでもぐだぐだと酔い潰れている李衣菜の相手をしている沙織は、べろんべろんになっている彼女の様子に苦笑を浮かべていた。
どうやらまだ余裕がある自分と違って、李衣菜の方は本格的に酔っ払っていると……アイドルとして見せちゃいけない姿を披露している彼女には、ついて来た祈里と恵梨香も困惑気味だ。
まあ、逆に考えれば今の李衣菜が気を抜いて自分と過ごすひと時を楽しんでくれているというわけであり、アイドル時代に親友として一緒にいたあの頃となんら変わらない雰囲気で再び彼女と接することが出来るようになったことへの喜びにはにかみながら、沙織は李衣菜の肩を支えてトイレを出る。
「ほ~ら~、そろそろしゃっきりするさ~! 今の李衣菜ちゃんの姿をファンの人たちが見たら、びっくりしちゃうかもしれないよ~?」
「んん、わかってるわよ……たまになら、別にいいじゃない……」
「ふふふ……! やっぱり李衣菜ちゃんは甘えん坊さ~!」
自分に寄りかかりながら呻く李衣菜へと、くすくすと笑いながら沙織がからかいの言葉を発する。
しかして、親友のことをしっかりと抱き留めた彼女は、少し前の事件を振り返りながら小さな声で李衣菜へと呟いた。
「……でも、そうやって誰かに甘えるのって大事なことだよ。李衣菜ちゃんには、静流さんみたいなことにはなってほしくないからさ……」
「……そうね。もう、あんな事件は起きてほしくない。私たちの人生を大きく変えてしまった出来事なんて、あの1回で十分よ」
2年前の事件を引き起こしてしまった静流の行動と、そこから加速していった彼女の変化を思いながら2人が語る。
沙織も、李衣菜も、静流に対しては【SunRise】の結成当時から頼りになるお姉さんという印象を抱き続けていた。
そんな静流があんな風に歪んで追い詰められてしまった姿を目の当たりにした2人は、誰にも弱音を吐露出来なかった状況が彼女を壊してしまったのだろうと考えているようだ。
もしも2年前、自分たちがまだ後戻り出来る頃に静流の苦しみに気付けていたら……と、遅過ぎる後悔を同時に抱えた2人は、今更それを考えたところでどうにもならないのだと迷いを振り切って、今を歩きながら言う。
「悩み事があったら、絶対にみんなに相談するんだよ? どうしてもメンバーに話しにくいことがあったら、私を頼ってもいいからさ……」
「あんたの方こそ、またうだうだと1人でなんでも抱え込もうとするんじゃないわよ。今度はきちんと、仲間に相談しなさいよね」
同じグループで活動することは出来なくなってしまったが、自分たちが目指す夢は同じだ。
今度こそ、そこに2人で辿り着けるように誓い合った沙織と李衣菜は、お互いを信じながらも想い合い、助言と忠告を織り交ぜた言葉を投げかけ合う。
……とまあ、ここまでだったらなかなかにエモいというか、感動的な親友の会話ということで終わっていたのだが――
「……あ、それとお酒の飲み方はもう少し練習した方がいいさ~。なんか李衣菜ちゃん、うっかりミスって醜態を晒す気がするもん」
「はぁ? あらゆることに対する警戒心ゆるゆるなあんたにだけは言われたくないんだけど!? あんた今日までそのでっかい乳関連で何度燃えたかわかってるの!?」
「私は燃えてないさ~! 巻き込まれた零くんが炎上してるだけだよ~!」
「なお悪いわ!! あんたの胸、正真正銘のパイナップル爆弾じゃない!!」
「大丈夫だよ~! 炎上させちゃう度に零くんには何でも言うこと聞く権利をあげて解決してるしさ~! え~っと……今、3回か4回か5回分くらいはストック溜まってるっけ?」
「それのどこが大丈夫なのよ!? はぁ、あんたねえ……阿久津くんも一応は健全な青少年なんだから、そういうよろしくない妄想を掻き立てるような言動は止めなさいよ……!」
と、段々と話の内容がズレた上に零を巻き込んだものへと変化していくと共に、漂っていた感動的な空気が脱兎のごとく逃げ出してコメディ空間へと早変わりしてしまった。
無防備極まりない沙織の言動に対して本気で苦言を呈した李衣菜であったが、当の本人はからからと笑ってそこまで気にしていない様子だ。
「だいじょぶだって~! 零くんはそういうことにお願い権は使わないよ~! 襲う時にはそういうの関係なしに襲うタイプの子だからさ~!」
「なんっにも大丈夫じゃない! ……念のために聞いておくけど、あの子のことを挑発するような真似をしてないでしょうね? 乳を強調したり、意識させたり、見せびらかしたり……さささ、触らせるだなんて以ての外なんだからね!!」
「え? う~んと……」
李衣菜の言葉に最近の……というより、今日1日の記憶を振り返った沙織は、妙にその忠告に心当たりがあることに気が付いた。
誘い文句は「お姉さんとデートしよう」だったし、この格好の時点でそこそこ胸に注意は向くだろうし、別に触っても良いよと何度も言っているし、挙句の果てにはπスラまで披露してあげたとくれば、最早言い訳のしようもないではないか。
色々と考え、頷き、李衣菜の目を真っ直ぐに見つめ返した沙織は、満面の笑みを浮かべながらとても力強い口調で彼女へとこう答える。
「うん、全部やってる!! でも何事もないから、大丈夫さ~!」
「……阿久津くんに本気で同情するわ。ちょっとあの子と話をしなきゃいけないわね……」
その答えを聞いた李衣菜は、自由奔放な沙織に振り回される零へと心の底からの同情を寄せる。
だがしかし、それとこれとは話が別という部分もあるため、一応しっかりと釘を刺しておかなければと判断した彼女は、席に戻ったら零としっかり話をつけようと決意するのであった。
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すいません、こっちも隔日で投稿していきます!
続きはのんびりお待ちください!
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