#息子を燃やすなしゃぼん
「俺の名前はくるる! 世界を旅する冒険者だ!」
【フレンドクエスト】は、主人公くるるが自分のことを紹介しながら歩くシーンから始まった。
頭身をはじめとした様々な部分がゲームに合わせてデフォルメされているも、十分に彼であるということが見て取れるその容姿に見とれつつ、ルンルン気分で森の中を歩くくるるのことを、しゃぼんが愛らしさを全開にした眼差しで見つめている。
『いや~、坊やはかわいいなあ! 流石は自分の息子! 楽しい冒険をさせてやるから、見てろよ見てろよ~!』
【この唯一神が導く時点でくるるんの旅には暗雲が漂ってるんだよなぁ……】
【不安だ。実に不安だ】
【わりい、俺、死んだbyくるる】
実際にゲームをプレイしているしゃぼんとそれを見守る契約者たちの間にはとんでもない温度差があるのだが、彼女はそんなことにもまるで気が付いていないようだ。
自分が生み出したくるるの活躍を見守るようにゲームをプレイしていた彼女は、道を歩く息子の前に黒い影が飛び出すと共に切り替わった画面を見て、素っ頓狂な声を上げる。
『あっ! もう少し楽しそうに森を歩く坊やを見ていたかったのに~っ! なんなんすか、こいつらは!?』
忘れてはならないのだが、【フレンドクエスト】は
今回は初の戦闘ということでチュートリアルも兼ねており、しゃぼんはゲームの指示に従って敵を倒していった。
『はっはっは~! 流石は坊や! 強いぞ~、カッコいいぞ~っ!!』
攻撃で敵を倒すくるるへと賞賛の言葉を贈りながらプレイを続けるしゃぼん。
ただのチュートリアルでここまで盛り上がれる彼女の単純さに愉快さを感じる契約者たちは、このすぐ後に判明する【フレンドクエスト】で重要となるある部分への期待を募らせながらくるるの活躍を見守っていった。
『お? やっぱこういうゲームらしく、スキルとかもあるんすね』
【きたきた! くるるんは何を覚えてるのかな?】
【覚えてる技によって難易度も変わるしな、ここは楽しみ】
【回復魔法だと序盤がちょっと安定するから、しゃぼんも楽に攻略できるかも】
『へぇ! 最初に覚えてる技ってランダムなんすか!? なんだかガチャを引いてるみたいで楽しみっすね! そんじゃ早速、坊やの覚えてる技を確認してっと……』
契約者たちが注目している部分、それはくるるが最初から覚えている技であった。
【フレンドクエスト】では、主人公を作成した際に1つだけ技を覚えられるが、それはこのチュートリアルで確認するまで何を覚えたのかが判明しない仕組みになっている。
無論、能力値が足りなくて技が使えない……なんてことはないように低レベル冒険者用の基本技の中から1つということにはなっているが、それでも結構な数があるため、この部分がプレイヤーにとっても、ゲームを見守る側の人間にとっても、楽しみな部分であった。
【初期武装が剣だったから、斬撃系の技の可能性が高いかな? 魔法の可能性もあるけど】
【剣はバランスがいいから普通におすすめ。メインアタッカーもこなせるし、仲間が揃ってきたらサポートにも回れる器用さがある】
【どんな場面にも対応できるオールマイティキャラの枢。解釈一致です】
コメント欄で意見を出し合いながら、くるるが覚えている技についての予想を行う契約者たち。
ややあって、しゃぼんが表示した画面に出た技の名前と効果を目にした彼らは、その内容に一瞬唖然とした後、大爆笑し始めた。
――――――――――
『炎上斬り』……HPをちょっと犠牲にして、相手1体に炎属性での強力な斬撃攻撃を繰り出す。
――――――――――
【ちょwww マジかwww】
【くるるんはゲームの中でも炎上するのかよwww】
【解釈一致どころか原作再現でしかないだろ、これwww】
偶然にしてはあまりにも出来過ぎなその技の名前と効果に、コメント欄が爆速で流れ始める。
あの枢をモデルとしたキャラクターが、炎上という名前がついた自分にダメージを与える技を初期習得しているだなんて……と契約者たちが大笑いする中、同様にこの偶然に爆笑しているしゃぼんが『炎上斬り』を使ってみると――
「わああ! 熱い! でもくらえ~っ!」
『えっ!? めっちゃ強い! 通常攻撃の倍以上のダメージが出てるんですけど!?』
【うん、それ大当たり。この辺の雑魚なら1発で倒せるし、炎属性のお陰で防御ステが高い敵にもそこそこダメージが入るからめっちゃ優秀】
【ここで炎属性の技を覚えてるとマジで楽になる。理由は言わんけど】
【くるるん、母親であるしゃぼんにかなりの頻度で燃やされることになるのか……可哀想に】
どうやら、体力を消費するだけあって『炎上斬り』の攻撃力はかなり高いようだ。
ゲーム内の使い勝手の良さにしても、配信上でのネタとしても優秀極まりないこの技の性能と自分の運の良さに調子に乗ったしゃぼんは、ガハハと大きく口を開けて上機嫌になりながら言う。
『勝ったな、ガハハ! これでもう何も怖くない! 一気にクリアまで突き進むっすよ~!!』
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