第二十六話
「ヘレナさん、探索にいきませんか?」
ヘレナの隣に座ったソフィアが声高らかにそう告げた。
本当にどんな偶然なのか、ヘレナとソフィアは受験番号一つ違いの隣同士だったのだ。ちなみにこの試験会場に来るまでのやり取りで二人が同い年ということも発覚している。
「えっ? 今からですか?」
あまりにも突然の提案、何よりヘレナがここに来てやろうとしたことと同じことをしようとしているソフィアに若干驚いている間にも彼女はヘレナの腕を引っ張って試験会場から連れ去っていった。
「ヘレナさんはどうしてこの学院を受験しに来たんですの?」
しばらく探索を続けていると前を歩いていたソフィアがくるりと振り返りヘレナにそう問いかけた。
「…………」
ただ街に出るためだけに受験しに来たとは口が裂けても言えないわけで、でもだからといってヘレナに他に理由がある訳では無かった。街に出れるということの喜びのあまりすっかり失念していたのだ。
「私はもちろん、魔法を学ぶために来たのです。私は
そうしてヘレナの答えを聞くよりも先にソフィアは新たな質問を投げかける。さっきからヘレナとソフィアの会話はずっとこんな感じでヘレナは基本的に聞き役に徹していた。
ただ、ヘレナにとってはこの感じがとても懐かしくてでもだからこそとても悲しかった。
「よくはわからないです。けど、光の魔法は使ったことがあります。とは言っても初級のやつですけど」
その瞬間のソフィアの目の輝きは凄かった。
「つつつ、つまりマルチマジシャン……すごい、すごいですよ、ヘレナさん!」
この世界では誰しもが魔法が使えるという訳ではない、むしろ使える方が珍しい、まではいかなくても希少であることには変わりない要するに魔法を使えるということはある種の特権として存在しているということだ。
つまるところ魔法を使える人間というのは必然的に上流階級に集中する。
貴族は自分の子が産まれると名前よりも先にその子供のステータスを確認するなんて皮肉があるくらいだ。まぁ、ただの皮肉として切り捨てられないのも事実ではあるが。
ただ、ヘレナはリブライトやレイテから自分が使える魔法というものを聞いたことは無かった。とはいえ光魔法、つまり特殊魔法が使えるということは基本魔法は全て使えるということになるのはこの世界では当たり前の常識なのだ。
「別に私が凄いわけじゃないですよ、たまたまです、偶然……」
「ヘレナさん?」
不自然に言葉が途切れ、歩みも止まったヘレナをソフィアが心配そうに覗き込む。
(……そう、たまたま偶然私は貴族に生まれて、何故か目の色を変えなくちゃいけなくて、英雄の娘ということになって、学院の試験を受ける、不自然なソフィア様とのエンカウントもそう。単なる偶然、として片付けるには都合が良すぎる。まるで決められたレールの上を走らされているような…………いいや、考えすぎ、だよね)
「ごめんなさい、大丈夫です。さて、次はどこに行きますか?」
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