第百九十五話

「はぁ、いいですよ。届けてあげましょう」


 私の返答にわずかばかり明るくなったラングロッサの顔であったが次の瞬間には私の言わんとすることを理解したようで一気にかげる。


「ただ、こっちがお願いを聞いてあげるわけですから、こっちのお願いを聞いてもらわないと割に合わないのは分かりますよね」


 目に見えて肩を落とすラングロッサ。

 別にそこまで鬼畜な要求をしようとは思わないんだけど、というかちょっとお願いしようとするだけでどうして嫌な顔をされないといけないのだろう。私、そんな顔をされるようなことを人に頼んだことないんだけど。

 だって、頼むよりも自分でやった方が確実だし早いんだから、てかそもそも手に負えないことはやらない主義だし。


「うむ、道理は理解している。とはいえ、だ。儂にも出来ることと出来ないことくらいあるのだからその辺は考慮してくれんだろうか」


「だから、私そこまで鬼畜じゃないです。少し気になることがあるから調べて欲しいだけです。調べごとくらいならなんでもないでしょう?」


 私としては不思議でしかないわけだ。

 どうして今になってあの教団ノストラルが行動を活発にしているのか。

 ノストラル、今でこそ一部の冒険者と僅かながらの関係者しかその名を知らないけれど、一時期はその影響力は一国よりも大きかったくらいの世界の裏側。

『新世界の創造』、なんて世迷言を掲げて国家転覆を謀ったり国家間の戦争を誘発させたりと事あるごとにその背後で動き回っていた時代の闇。

 当時の大陸主要七カ国の連合軍と壮大にやり合って教祖が首をられ拠点も更地となって、歴史から消された人の業。


「ノストラル、ここ最近の奴らの動きは異常でしょ、少なくともギルドとしても無視を出来る範囲は超えているはず」


 全盛期ほどではないにしても各地に点在していると言われるノストラルの支部、脅威こそ盗賊団と同等になっているけれど本来のそれは未知数だ。

 何より今回の一件で王国ですら迂闊に手を出せなくなった。


「妙な胸騒ぎがするの」


「まぁ、言わんとすることはわかる。今回のギルド会議もそれを話し合っていたところだ。さすがに今回ばかりは露骨すぎる、とな」


 そうしてラングロッサは腕を組む。


「だからこそだ。だからこそ今は儂等も迂闊には手を出せない。どんな脅威が潜んでいるかもしれない、流石に予想外が多すぎる」


「まぁ、そうですよね」


「だが、やれることはやるとしよう。久々に儂が出るのもやぶさかではない……と、そうだもう一つお主に書きたい方があったのだ、今回の事件の犯人の素性は分かっているか?」


「……よく知ってますよ。特にあなたは」

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