第十九話
怒りに任せて思いっきり振りかぶるリグニス。
「あぁ、もう。恨まないでくださいね……ショック!」
短い掛け声と共にサリーナがリグニスの懐に潜り込み心臓の当たりに手を添える。眩い閃光とバチッという音が聞こえたかと思うとリグニスは地に伏した。
振り上げていた剣はカランカランと地面を転がり、倒れたリグニスはあちこちから煙を上げている。
「あぁ、やはり、やはりあなたがあなたこそがサリーナ・バルトホルン。英雄のご帰還だぁ」
「あ、いやこれ……」
呼び止めるサリーナを振り切り杖をついた初老とは思えない速さで叫びながらダレアは裏路地の中を走り去っていった。
「……行っちゃったね」
「はい、行ってしまいました……それよりもいきなりどこかへ行かないでください。せっかく焼き串を買えたのに戻ったら誰もいなくなっていて本当に肝が冷えました。誘拐されてしまったのかと思いましたよ」
「不可抗力……それよりもサリーナ、その口調。私の母親を名乗っているのなら自分の子供に敬語は使わないでしょう。さっきもお嬢様って言いかけていたし、しばらくこの街に滞在するんだから早めに慣れてよね」
「そうは言いましても、もはや癖と言いますか……」
「ほら、また。というか焼き串は?」
「あっ」と、なにかに気が付きサリーナはスっと目を逸らした。
ただこれに関しては一概にサリーナが悪いというわけではなく約束されていた場所を離れたヘレナにも非があったということで数十分に及ぶ長い議論の末に今度は二人で並ぶということで解決したのだ。
ただ、ここに来てもう一つ大きな問題が浮上したのだった。
「……この人ちゃんと生きてるの?」
近くに落ちていた木の枝でなおも煙をあげるリグニスの腕をつつくヘレナ。もうかれこれ三十分近くに反応がない。隣でかなりの声で言い合いをしていたというのに全く動く気配がないのだ。
「それになんて言うか、痺れて気を失ったと言うよりも焼け焦げたって感じが凄いんだけれど」
「いやいや、加減しましたよ。あれくらいの雷撃では小動物すら殺せません、良くて致命傷がせいぜいですよ」
「……致命傷なら普通に死んじゃう可能性あるんじゃないの、それに直接心臓の当たりに流したわけで」
まさかぁ、というサリーナの表情がヘレナの一言によって凍り付く。何よりサリーナ自身そういった経験があったのだろう、顔がどんどんと青ざめていく。
「……え、どうしましょう。私が悪いんですか、正当防衛にはならないですか? 最初に斬りかかってきたのこいつですよ、明らかに私には非がないと思うのですが……というかこんなの蹴飛ばしたら起き上がるんじゃないですか?」
「ちょちょちょっと、流石にそれは可哀想だって。ただでさえ普段経験するはずのない雷撃が直撃してるんだよ。そこに元冒険者の蹴りなんかが入ったら仮に生きていたとしても死んじゃうよ」
軽いパニックも相まって実力行使しようとするサリーナを何とか押しとどめる。
「おい! お前ら兄貴に何してやがる」
声がした方へ振り返ればそこにはいかにもチンピラといった格好の男が三人立っていた。
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