第二十九話
「はぁ~、やっと見つけたよ」
ヘレナが魔法を解除してしばらくすると空から例の女性が間延びした声と共に降りてきた。
「よっと、いやぁ〜魔法を使ってくれて助かったよ」
まだ若干怯えている様子のソフィアと軽く会釈をするヘレナ、その二人の目をしっかりと見てから女性はにっこり微笑んだ。
「挨拶が遅れたね。私はこの学院の職員でここの管理者のセレスティア、ごめんね、驚かせるつもりはなかったんだよ」
後ろからいきなり声をかけられて驚かない人間なんていないよ、と心の中で反論するヘレナだったがそれを口に出すことはなかった。
というのもセレスティアは相変わらずやる気のなさそうな声に気怠そうな顔なのに髪と同じく緑の瞳だけはそれとは逆だったからだ。言葉にすれば、そもそもそれ以前に言葉にしなくても行動の一つからでも自分たちの考えていることを全て見透かされてしまうような気がして二人にとってはそれが少し不気味で怖かった。
「えっと、私はヘレナです。こちらはソフィア様です。あの、早速で悪いのですが彼女の傷を直してもらうことは出来ますか?」
「うん、それは
ヘレナの背中に隠れ袖を掴んでいるソフィアを見てセレスティアは苦笑いを浮かべる。ただ、ヘレナとしてはちょこんと袖を掴むソフィアが可愛かったし誰かに頼られるということがまんざらでもなかった。
「まぁ、とりあえず出口を目指そうか。時間もないんでしょ?」
こっちにおいで、と手を招くセレスティアに連れられてヘレナたちは出口に向かって歩き出した。
* * *
「……こんなに近かったんですか?」
体感にしてまだ数分しか歩いていないはずなのにヘレナたちの目の前にはあの大きな扉があった。
「う~ん、まぁ、そうだね。自分の身長よりも高い草木があったら無理もないさ。それに少しだけズルをしてるからね」
「ズル、ですか?」
「そ、私たちからしたらなんでもないけど一般人からしたら明らかにズルって思われる。実際に君たちが歩いたり走ってたりした距離は大体今歩いてきた二倍から三倍弱くらいかな。これでも私は魔法使いなわけだからね」
ソフィアの切り傷や擦り傷を魔法で治療しながらヘレナの洋服の汚れも魔法で落としながらふふんと胸を張るという器用な芸当を見せるセレスティア。
「じゃあ、この中の広さがおかしいのも」
「正~解! ここは私の魔法で空間を拡張してるからね。もう、自分でもどれくらい大きくしたのかわからないくらいには大きいね。よかったよ、君たちがもっと奥の方に進んでいなくて、あそこより奥はちょっと厄介になってるからね」
「……ちなみに何で私が魔法を使っただけで私たちの居場所が分かったんですか?」
「うん、ここは私の魔法展開領域だからね、そこに別の魔力が流れるとなんていうんだろう違和感というか、背筋がゾクッとする感じというか、とにかく気持ち悪い感じがするんだよ。んで、その気持ち悪さのより濃い方へと進むとそこに発生源、つまり君たちがいるというわけさ。いわゆる探知魔法みたいな感じだよ」
その後もセレスティアはヘレナの質問責めにも丁寧に答えてくれ、その上無事会場まで連れ戻してくれた。その頃にはソフィアも大分セレスティアに慣れたようでちょくちょく会話に参加するようになっていた。
そんなこんなでようやっと入学試験が始まるのだった。
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