第百十五話
「―――それなら今度の休みの日に一緒に見に行きませんか」
「いいけど、私何もわからないよ」
「任せてください。後悔はさせませんから」
そう言って自信満々にガッツポーズを決めるソフィアにヘレナはいつかのような既視感を感じていた。校舎の一階にある更衣室を後にして教室に向かうために階段を上がっていく二人。
そしてちょうど二階の踊り場に登ったところでソフィアが「そういえば、サリーナ様の容態はいかがなのですか?」、と振り返りながら質問を飛ばす。
「ん、うん、お母さんが言うにはもう傷自体は完治してるらしいんだけど私が行くときは決まって包帯グルグルなんだよね。ルーナさんも少なくとも後一ヶ月は大人しくしていてもらいますって、あの人普段は物凄くおっとりしてるのに怪我とか病気のこととなるとなんかスイッチが入ったみたいにさ───」
突然ヘレナの肩を両手で押さえたソフィアは強引に彼女のことを向き合わせる。
「えっ、ソフィア、何? 怖いんだけど」
「ねぇ、ヘレナ。サリーナ様ってそのルーナって人がいなければ全治半年の大怪我だったんですよね」
急に真剣な顔になって見つめてくるソフィアにヘレナは黙って頷く。
「ルーナ様って光属性魔法、とりわけ高度な回復魔法を使うシスターなのですよね。ちなみになのですけどその方って銀髪ですの?」
「そうだよ? 毛先が腰ぐらいまである綺麗なストレート」
突然ルーナのことを様呼びしたかと思えばソフィアは呆れたと言わんばかりに大きなため息をこぼした。
銀髪だって説明したことあったっけ、と疑問を浮かべるヘレナとは対照でソフィアはどうにも落ち着かない様子でそのままヘレナに質問を重ねる。
「それなら家族以外がお見舞いにいけないのも納得できますわ、ヘレナ。ルベナリア様って知ってる?」
「ルベナリア……その名前どこかで見た覚えがある。えーっと何かの本だっけ、著者? でも見たことあるような、記述にもあったような」
こめかみに指を立てて必死に記憶を探るヘレナにソフィアは更なるヒントを提示する。
「ルベナリア・フォン・アーテライド・クレステラ、と言えばさすがにわかりますか?」
その一言にはっと顔を上げたヘレナが「―――救国の聖女?」、と呟く。
それを受けてソフィアは静かに首を縦に振る。
『救国の聖女』、読んで字のごとく彼女は今から五十年ほど前に王国果てはこの大陸全土で蔓延した感染症をたった一人で撲滅したという伝説の魔法士。彼女の活躍で少なくとも四つの国が滅亡を免れ結果的に数千万人の命が救われたというのだからまさしくその二つ名がふさわしい本物の英雄である。
そして何より彼女もまた七賢者の一員なのだ。
「まさか、そこまでの大物だなんて…………ん? というか『ケーラワリスの大災厄』って五十年近く昔の疫災だよね。ルーナさんって一体いくつなの」
ヘレナの疑問も当然のもので彼女から見たルーナの容姿は三十代前半下手をすれば二十代だと言っても余裕でまかり通るほどのものだった。あれで実年齢は五十歳以上というのはヘレナの常識からしてまず有り得ない。辛うじて魔法のある世界だからという納得の仕方があるとはいえどうにもイメージが繋がらない。
「ヘレナってなんで頭はいいのにそんなに世情に疎いのよ」
驚きと困惑にてんやわんやのヘレナを片目にソフィアは楽しそうにクスクスと笑う。
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