第百四十九話
「どういうことですか?」
目の前にいる少女は彼よりも一回りも二回りも若い年齢だと言うのに彼女の放っているプレッシャーはそれを一切感じさせないどころか王国屈指の剣士である彼を後退らせるほどのものだった。
終始無言で彼の机の前にある長掛椅子に腰を下ろした彼女。その意図が分からないほど彼も馬鹿ではない、と言うよりも他の人よりもはるかに長い間彼女の成長を見てきているのだから分からないわけがない。だからこそ彼は彼女の一言に並々ならぬ重さを感じるのだ。
「あー、ヘレナ。一応、会う時には事前に断りを入れてほしいんだが……」
座った黙秘を貫くヘレナを見てどうしてこうも似て欲しくないところばかり似てしまうのだろう、とリブライトは一人寂しくため息をついた。
「うん、とりあえず今回の件は全て私に非がある。すまなかった、でもな……」
「とーさま、別に私は怒っているわけじゃないです。私がここに来たのはいい訳じゃなくて説明を聞くためです。まぁ、とーさまのことですからどーせかーさまに頼まれて断れなかったとかなんでしょうけど、分かっているなら教えてくれてもよかったんじゃないですか。というかいいのですか、容姿と名前を隠すのはとーさまの決めたことですのに進んで粗を晒すようなことをしてしまって」
「――――――」
「とーさま、聞いてますか?」
「あ、あぁ、いや正直予想外でな」
てっきり苦言が飛んでくるとばかり思っていたラクスラインはヘレナの思いもよらない言葉にわずかに放心しその後意図せず笑みをこぼした。
「私としても本音でいえばレイテを教師にすることになるとは思わなかった。今回はそもそもが予想外、想定外の連続だったんだ」
かく言う彼もまた丁度その手続きに追われているのだった。手元の資料に目を落としつつ、右の山から左の山へと書類を移しつつ頭を掻くリブライト。
時折ハンコを押しながら唸り声を上げるリブライトを見て、ヘレナはふと疑問に思ったことを口にした。
「とーさま、気になってたんですけど、この国では教師って簡単になれるんですか?」
ヘレナの問いかけにリブライトは一瞬資料から視線をあげる。
すぐに視線は資料へと戻ったが彼はすぐに返答を返した。
「まさか、難易度で例えるなら平民が貴族になるくらいには厳しい。そもそも教師っていうのは職種的には国家騎士と変わらないからな、給金だって国や領が負担している。当然試験だってあるし領主ないしは国が発行する許可証が必要になる、さらに言うなら許可証を持っていてもそれだけでは教師として教鞭をふるうことはできない。少なくとも半年は研修期間をこなさないとな。でも、今回は特例も特例。まぁ、私が学院長であるが故の例外と言えばそれまでなんだがな。とにかくレイテには教師をやっていた過去なんてないし当然許可書だって持ってないわけだ」
「つまり、とーさまが忙しいのはそういう事ですね」
「あぁ、そうだ。ちなみにレイテの関係はどういうふうに説明してるんだ?」
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