第百四十八話

「―――うん、そうしたら今日の講義はここまでかな。みんなちゃんと復習はするんですよ」


 その後の授業はこれと言いて問題もなく進んだ。結局、この日の講義で無詠唱魔法を習得するものはいなく、もっと言うならその実態を理解できているものがいなかった。当然、そんな状態では問題なんかが出てくることなんてないのだ。理解すら出来ない技術に新たな疑問が積み重なるだけで根本的な解決には一切至っていないのがこのクラスの現状だった。

 最初こそソフィアもクレアも意気揚々と講義に挑んでいたのだが講義が半分も経たないうちに頭の端々に疑問符を浮かべていた。魔法では他の生徒よりも頭一つ抜きに出ているクレアですらそうなのだ、他の生徒にはそれこそ同じ魔法の話とすら思えていなかったであろう。

 ときおり教壇に連行されたヘレナもクラスの状況に何をどう説明したものかと終始頭を抱えていた。こればかりはどうしようもなく元々彼女は人に何かを教えるというのが得意では無い……というか教えるのが下手なのだ。ヘレナからすれば分からないところが分からないという状態なのだ。質問されればそのことに対する回答は出来るが具体的な質問がない状態ではどう答えればいいのかが分からないのである。

「ぐわぁ〜」「どういうこと?」「ほぇぇ〜」、他にも多種多様な感嘆符がこぼれるクラスであったがその中でも数名の生徒は目を輝かせて講義を、自分が取ったノートの文字を追っていた。


「――――――クレアは無詠唱魔法を使わないんじゃないんですの?」


 闘技場とは打って変わってその態度が変わったクレアにわざとらしくソフィアは笑いかける。


「いや、こんな機会は滅多にあったものじゃない。ヘレナちゃん曰く無詠唱には才能が無いらしいしやらない手はないよね」


 予想していたのとはまた違う即答に軽く笑みを返すソフィアであったが彼女も内心は全く同じ考えであった。


「ねぇ、ヘレナ。今日の放課───あれ? クレア、ヘレナは?」


「えっ? ありゃりゃ、ほんとだね。どこに行ったんだろう?」


 しばらく周囲を見渡したクレアがおもむろにため息を吐く。


「───でも、やっぱり私はヘレナちゃんにはなれないね」


「何言ってるんですか? そんなの当たり前じゃないですか、ヘレナはヘレナ、クレアはクレアでしょ?」


 クレアの独り言にソフィアが即答する。彼女としてもついついこぼれた独り言に反応が来るのは予想外で驚いた顔でソフィアを見つめる。それに対してキョトンとした表情で首を傾げるソフィア。

 そこからは語るまでもなかった。一瞬にして距離を詰めるたクレアはこれ見よがしにソフィアの頭を撫で回した。「いやぁ〜」、と目をつぶるソフィアに頬を緩めつつそれでもクレアは少し残念そうにため息を着くのだった。


「でも、やっぱり羨ましいや」

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