第十話

「あなた、ヘレナにあのことを言わなくてよかったの?」


 ヘレナが部屋を去ったあと、レイテとリブライトは向かい合って話をしていた。


「……ヘレナに教えてもどうにもならないだろうよ。目の色なんて生まれつきのものだ、今更変えるなんて事できないんだから。それに……」


 それにリブライトが目を隠すことを条件にした時、ヘレナはそれについて何も触れなかった。まだ十歳にもならない少女、ならそれはおかしなことではないのだけれどヘレナに関してはそうとも言い切れなかった。彼女は時折同年代の子どもとは比較にならないくらいに聡いときがあった。おかげでリブライトは何度もひどい目に遭い、それと同じくらい、いやそれ以上に助けられていた。リブライトは今回に関してもヘレナはあえて聞かなかったのではないかという印象を強く受けていた。


「でも、この家にそういった類の文献はなかったような気がするのだけれど?」


 レイテは元々読書に興味がある訳では無かった。けれどヘレナがあれを読んでこれを読んでと言うのに従っていたらいつの間にかこの屋敷にある大抵の本は読破していたのだ。


「いや、まったくないわけじゃないんだ。レイテはこの屋敷に地下があることは知っているよな」


「えぇ、食糧の備蓄倉庫になってるところよね。あまりいい感じもしないからすすんで入ろうとは思わないけれど、なんていうかじめっとしている上に薄暗いじゃない。不気味なのよね」


「地下室なんて大概そんなものだろう。それは別として、あの地下室にはもう一つ別の部屋があるんだよ、そこは書斎になってるんだ。まぁ、実際は書斎とは名ばかりの物置になってしまっているがな」


「知らなかったわ。メイド達もそんなことは口にしていなかったと思うのだけど……もしかしてあなたがあの魔法を使えるのって……」


「本当に勘がいいというか何というか、こういうところはレイテに似たんだろうな」


 やれやれと首を横に振るリブライト。


「でも、隠しているならヘレナも見つけられないんじゃないの?」


「いや、あの魔法はただ単に隠しているいるだけなんだ。だから扉もその部屋も確かにそこに存在している。まぁ、簡単な話透明にして目から見えないようにしているだけなんだよ」


 だから、その気になれば探査系の魔法を使わなくても隠しているものは見つけることができる。ただ何よりも効率が悪い、それに基本的にそういった場所は何重にも魔法がかけられていてそもそも簡単には開かない。


「ならやっぱりただ喜んでいただけじゃないの? 私、あの子に何度も頼まれていたのよ、あなたを説得させるのを手伝ってってね。まぁ、私が動くまでもなくあの子はあの子の力だけでそれを実現させちゃったのだけれど」


 嬉しそうに微笑むレイテを横目にリブライトはそんなことまでしていたのかとため息をこぼす。本当に自慢の娘だと思う反面で絶対に敵には回さないようにしようと固く心に誓ったのだった。

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