第十一話

 この世界で魔法を扱うために必要になるのは大きく分けて二つ。

 一つは適正である。魔法にはそれぞれ属性というものが存在する。火、風、土、水、この四種が基本系統になる。さらに、光、闇、空間の三種が特殊系統となり魔法の属性は全部で七種類、適正もそれぞれ七種類存在するのだ。そして魔法士は持っている適正の数で呼ばれることが多い。二種デュアル三種トリプル四種クワッド、五種以上はまとめてマルチという。というのも特殊系統は基本系統の上に成り立って基本系統の四種類が使えることが第一の条件になる。つまり適正が判明した段階で特殊系統のどれかを持っているのなら基本系統はすべて使える五種魔法士マルチマジシャン以上であるということ。ただ適正は生まれつき持っているもの、つまりは先天的なものであって後天的に身に付けるということはできない。生まれた時に四種の基本系統の適性を持っていたとしても、特殊系統の魔法を使うことはできない、どれだけ頑張ろうとも適性を追加することはできないのだ。

 そしてもう一つは魔力である。どれだけ適正があろうともそれぞれの魔法を発動させるにはそれ相応の魔力が必要になるのだ。魔法は属性を結合させればさせるほどに強力になる、例外的に一種のみの超級魔法も存在するが基本的に併せた方が強くなるというのが共通認識である。ただ、当然併せた分だけ魔力制御と魔力は格段に大きく難しくなる。

 魔力が足りない状態で無理に発動させようとすれば卒倒するし、制御を失敗すれば暴走し爆発する。案外魔法というものは面倒くさいものなのである。

 ただ、魔力は適正とは違って後からいくらでも増やすことができる。だから、魔法適正が多い魔法士よりも魔力量の多い魔法士の方が優遇されたりする場合もある。能力に限界はあっても努力に限界はないということであろう。


「……さま……ーさま……とーさま。聞いていますの?」


 ヘレナがリブライトの袖を何度か引っ張る。

 今、ヘレナとリブライトは魔法の練習をするために屋敷の近くにある森に来ている。この森には樹齢三百年の大樹があり、その背丈は周りに比べても格段に抜け出ていた。彼女はこの場所を特に気に入っているようで、度々この大樹の下でうたた寝しているところを従者に回収されている。


「ん? あぁ、聞いているとも。さて、どこから教えようかね」


 相変わらず大きな木だ、とリブライトはてっぺんを見上げるが太陽と重なり合って思わず目をつむる。


「だから、もうできたよ。ほら、見て……これでいいんだよね?」


「は?」


 何度かまばたきを繰り返した後言われるがままにヘレナの瞳を見ると確かに彼女の瞳はリブライトと同じ黒目になっていた。少しだけ魔法の概要を説明しただけなのに彼女はもう『フェイクカバー』を自分のものにしていた。

『フェイクカバー』、その名の通りに自らの姿を偽装したり隠蔽するための光魔法である。ただこの魔法の魔力消費量は大したものではないし、そもそも発動する際にしか魔力は必要なく半永久的に効果を発揮し続ける。その原理としては周囲の魔素を利用するというものだ。魔素と魔力に大きな違いはなく、簡単にいえば体内にある魔法発生媒体が魔力、体外にある魔法発生媒体が魔素ということになる。

 そしてこの魔法は隠すものが小さければ小さいほどその効果が上昇するという特質がある。つまり、ヘレナの本当の瞳を隠すのにこれ以上の魔法はないということだ。


「……完璧、だな。でも、その髪だと黒目は少し違和感があるよな。レイテと同じ感じにできないか、多分そっちのほうが似合うと思うんだよ」


 リブライトはヘレナの持っている適正を知っていたから魔法を発動することはできる、とは確信していたが簡単な説明をしただけでそれも一発で成功させてしまうとは考えてもいなかった。

 そもそも、魔力の制御であったり魔法の扱い方なんて誰も教えていないと思っていたのだが、本当にヘレナは簡単に予想を超えていくなと感心半分呆れ半分といった表情をしている。


「かーさまと? でも、かーさまの目の色も珍しいと思うんだけど……」


 しぶしぶといった感じだったけれどヘレナはリブライトに言われたように目の色をレイテのような綺麗な碧眼に変えてみせた。レイテに比べると若干淡い感じの青色だった。


「うむ、似合ってる。それでいこう」


 なぜか満足気味のリブライトに押される形で出かける際の変装が決定したのだった。大樹を後にし屋敷へと向かって森を歩いている中、ふとリブライトはさっきまでの光景に違和感を覚えた。結局その正体はわからなかったが振り返ったとき見たヘレナの笑顔でその違和感は吹き飛ばされた。

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