閑話
第十二話
むかしむかしのそのまたむかしの物語。
今はもう人々の記憶からも記録からも忘れられた小さな国があったという。特に目立った名産などはなく、裕福でもなく貧乏でもなく、これといった取り柄が全くない辺境の地ではあったがその国の国民は皆幸せそうに暮らしていた。
それはある夏の朝の事だった。その日はここ最近では最も暑く、日が昇るにつれて外に出るのが嫌になるほどの太陽光が降り注いでいた。まさに炎天下の一言で地面からは
そんな日の王城に一つの産声があがった。産まれたのは元気な女の子であった。
その女の子が誕生したという話は小さな国の中を瞬く間に駆け巡った、その子が産まれたのは朝であったがその日の昼には女の子の顔を一目見ようと多くの国民が炎天下の王城の前へと結集していた。あまりの国民の団結力に押される形で国王はその日の夜に宴会を開くことにしたそうだ。そうでもしなければきっと国民は家に帰らなかったであろうしおそらく何人か倒れるものが出ていたであろう。
宴会にはその国の国民であれば貴族であろうと平民であろうと参加することができた。この時代であっても今の時代であっても国王が開く宴会に平民が参列できるというのは珍しい。ただ、それがあったからこそ国王は皆に慕われていた。
宴会では新たに産まれた姫の顔を見るためにと城下にまで続く長い行列が出来ていた。その行列は一晩で途絶えることはなく、その後宴会は三日三晩続いたそうだ。
少女の生誕を祝った宴会が終わる頃、一人の農夫が空を見上げて声を上げた。
「雨だ、雨が降るぞ……これは奇跡だ、神々の祝福だ」
雨が降る前特有の生暖かい風が城下から王城へと吹き抜ける。
翌日、この国ではこの時期には有り得ない程の雨が大地に降り注いだ。というのもこの国では雨季と乾季が存在していているのだ。そして今現在は乾季にあたる。そのため雨季である秋から冬にかけての間に夏を乗り切るだけの水を貯めるのだった。しかし、今年……いいや、今年に限らずここ数年雨季ですら降水量が減少し続けていた。
特に今年は数年の中でも特に酷く貯水量は既に底が見えかけていた。乾季では近くを流れる川も上流の湖もろとも干上がってしまうため、今年はどうやって夏を越えればいいのだろうと国王を含め国民は頭を悩ませていた。そんな時に降り始めた雨だったのだ。彼らからすればまさに奇跡の雨だった。
ただ、言っておくが小さな少女がこの降水を引き起こしたというわけではない、けれども産まれた時期が時期だったのだ。国民は少女を讃え敬った、そうして少女は一夜にして有名になりその名前は国外ですら噂が独り歩きを始めるほどに知れ渡った。
これが、ただの一人の少女が奇跡の子と呼ばれるようになった最初の出来事である。
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