第十三話

 有名になり過ぎた少女の下には様々な国から様々な使者が代わる代わるやって来た。この国とは全く関係を持っていなかった大陸の反対側にある国の王子が顔を出し、更には婚約していただけないかと言ったもんだから、国王は怒りを通り越して呆れたそうだ。その後そういった一方的な縁談がとめどなく流れ込んできたが五年が経とうとしたときにはすっかり状況は落ち着いていた。


「とーさま、見てください。おさかなですの」


 ただ、少女はではなかった。彼女は一歳になったばかりで話すこと歩くことなど何ら問題はなく出来ていた。まぁ、ここまでであればまだ普通ではないが有り得ないというわけではない。彼女が明らかに普通とは違ったのは誰が教えたというわけではないのに二歳になろうかという時には魔法を使うことができているということであった。

 今も彼の目の前で彼女が水で作り上げた魚が空中を上下左右と自由自在に泳ぎまわっている。


「もう、驚かないと思っていたんだがな。しかし、どうしたものかな……」


 国王である彼は自分の娘のことを本当に誇らしいと思っていた。ただ、目の前の少女はあまりにも規格外であった。

 本来、魔法といったものは後天的にしか身につかない。適正があるということももちろん大切ではあるが何よりも知識がなければ魔法を発動することはできない。その知識を誰も教えていない、さらには五歳の少女がここまで自在に魔法を操るという行為はまさしく天才、いやそれ以上に神々の恩恵を、もっと言うなれば寵愛ちょうあいを受けているとふうにしか考えられなかった。

 こうなってくるとまた、五年前のように面倒なことになることは容易に想像できる。とはいえあれだけ堂々と公にしている以上隠すということはできない。完璧に隠すことが出来ない以上情報をできる限り規制するというのが妥当なところだろう。その中でも魔法に関しては伏せておくのは最優先で最重要な事柄であろう。

 少女の頭を撫でながらこれからどうしたものかと考える。


「……さま…ーさま……おとーさま。聞いてますの?」


 いつの間にか随分と瞑想していたらしく、少女が少し心配そうな顔をして彼の顔を見上げていた。


「あぁ、ごめんごめん。ちゃんと聞いているよ」


「うそですわ。もういいです、おとーさま。わたくし出かけてきますの」


 慌てて答えたものの少女の目は誤魔化せないようだった。

 ふん、と頬を膨らませて少女は彼の書斎からスタスタと出て行った。城下町の住民や商人はこの少女のことをえらく気に入っていて、彼女が城を出ると毎回毎回お祭り騒ぎとなるのだ。最初は彼女の父である国王も城の外に出ることを大層心配していたがあまりの人気ぶりに腰を抜かしていた。

 今となっては城下の騒ぎで少女の居場所が分かるくらいだ。最近の国王の趣味は城下の騒ぎをバルコニーから眺めること。彼も国王である前に一人の父親なのだ、娘が有名になる、皆から大切に扱ってもらえている、というのは誇らしいものだった。


 そうこの国は平和

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