第五十三話
数回にわたる閃光と轟音がこだましたサヘラ区画。いつもから目も当てられないほど酷いそこではあったが現状は更に悲惨な様相となっていた。
「これが最終勧告です。武器を捨ててください、これ以上戦闘を続けるというのなら命の保証はできませんので」
この大陸では悪名しか聞かないノストラルそのアレイスロア支部……いや、旧アレイスロア支部あるいはその跡地と言った方が適切だろうか。そこにあったサヘラ区画には似つかわしい豪華な屋敷はサリーナが放出した大威力の高位魔法により屋根もろとも二階までも吹き飛び野ざらしとなっていた。
既にサリーナとレバノスの二人が作戦を決行してから一時間弱の時間が経過している。集合場所に待てども来ないレバノスにしびれを切らしてサリーナは単身こうして敵陣に突っ込んだのだ。
目覚めの一発とでも言わんばかりの高火力の砲撃はちょっと魔力を持った程度の者たちが耐えれるはずもなく、ましてやそこそこの冒険者ですらそれに直撃すれば無事ではすまない威力を有していた。
そんな攻撃から運良くいや、運悪く逃げ延びてしまった者たちが今こうしてサリーナを囲んでいるのである。数にして七、それぞれの戦闘能力は多めに見積もってもCランクの冒険者程度、前とは違い手加減をする必要もするつもりもない訳だがサリーナとしては少しでも情報は集めておきたかった。だからこそ本気を出すことなく敵の攻撃をいなす程度に留めていたのだが流石にサリーナも疲れていた。
「あなた達が武器を下ろし私の質問に答えるのならこれ以上の危害を加えなくて済むのですが……」
嫌々、ではあるが説得を試みるサリーナ。しかし、ここまでことが進行している以上ここで引くものがいるはずもない。皆一概に武器を持ち直して身構えている。
「……そうですか。では、容赦はしません。もとよりかける情けはないのですから期待はしないでくださいね。ここからは本気で殺します……
抑揚なく言い放つ言葉と冷たい視線により一層空気は張りつめる。
軽く踏み込んだサリーナのその姿が一瞬で搔き消え彼女の右側で武器を構えていた三人が煙とともに崩れ落ちた。
「くそっ、刀に触れるなっ! 触れた瞬間焼けこげるぞ!」
残された男達は動揺を隠せずどよめいていたが一人、部下達を指揮する男は知っていた。サリーナの実力を英雄と呼ばれる無慈悲なまでの強さも全て、少なくとも一冒険者として身近で見ていた。
立ち止まったサリーナの握る刀は刀身に雷を
ふっ、とサリーナの体が再び揺れて叫んだ男の両脇の男が地面に突っ伏した。
「触るな! なんて無茶なことを言っちゃいけませんよ。防がなければ真っ二つですしね。最初から素直に話せばよかったんです、そうすれば死ぬことはなかったでしょうに」
英雄が英雄である所以、その力の一端を垣間見た今となっては男には戦う意志はなかった。ただ目の前に広がる光景への恐怖、圧倒的な実力差。勝てるはずがない、もとよりそんなことはわかっていた、でもそれでもここまで大きな差があるとは思っていなかった……そうは思いたくはなかった。
「……なぜ、今更。お前はもう引退したのだろ」
「いえ、私は誰かに冒険者を引退すると言った覚えは無いです。まぁ、ほとんど活動はしてなかったので引退には近かったわけですが……私としてはあなたにこそなぜと聞きたいのですが」
サリーナが刀を軽くはらうと刀身に絡みついていた雷は嘘のように空気に溶け込み消えていった。
膝から崩れ落ちた男と向き合ったサリーナ。
「死にたく無かったら私の質問に答えなさい、それが出来ないなら選択肢はない」
「俺は……」
男が震える声で語りだそうとした時だった。
甲高い金属音がこだました。
そこでは目にも止まらぬ速さで身を翻したサリーナが剣を受け止めていた。
「横槍は関心しませんね。それに女性相手に背後から切りかかるなんて。落ちるところまで落ちてしまった、ということでしょうか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます