第百八十三話
ドヤ顔でそう告げたルーナ。
なるほど、簡単なのはルーナがということなのか。
「まぁ、そんなとこだろうとは思ってたけど、何でそんな特例があるのさ」
「さぁ? 私も詳しいことは知りません。ただそうと決まっているのならそれを最大限活用するだけです。とはいえ私もサリーナが本当に嫌だ、と言うのなら無理強いはしません。もとより師匠のお使いのようなものですから、奇病ほどの緊急性は有りません。少し寂しくはありますけど……」
果たしてこの世界の中で聖女にそんな物言いをされても断ることの出来る人物は一体どれほどいるのだろうか。
ただ、そうでなくても私のする事は決まっている。
「別にいいよ。病室で寝てるよりもずっと面白そうだし、少しでも体を動かさないと感覚は鈍るしね」
今のままでは駄目なんだ。
これじゃ足りない。
私がこんなんじゃ守りたいものも自分自身だって守れない。
何かがあってからでは全て遅いんだ。失ってから実力を嘆いても努力を悔やんでもどうにもならない。失ったものは戻らないし無くしたものは帰って来ないんだ。
うん、知ってるよ、今更念を押されなくたって分かってるよ。その苦しさもその無力さも痛いほどに味わって感覚が麻痺するくらいに体験しているんだから。
「後、デートというのは嘘じゃないですよ。メルドスロアでは目一杯楽しむつもりですからね。そのためにもさっさと奇病をどうにかしてめんどくさいお使いも終わらせたいのです」
「まぁ、渡りに船って事にしておくよ。でも、メルドスロアか、ルーナは行ったことあるの?」
「一回だけ、ですけれど師匠に連れられて行ったことがあります。とはいえそこまで記憶に残るような事はしてないと思いますからほとんど初めてと言ってもいいですね、そもそも五十年近く昔の事ですよ。あ、いやでもそうでしたあれは大災厄の時ですから、まぁあの時とはだいぶ変わっているでしょうね」
「『ケーラワリスの大災厄』、か。あの被害は尋常ではなかった……って聞いてるからね。ルーナが居なければこの国も無かったのかもしれないって考えると本当に救国の聖女様だよね、ほんと大英雄だね」
「別に私はそんな大した人物じゃないです。あの時だってただ自分が出来ることに必死だっただけです。結果的に私は大災厄を収めた立役者みたいになっていますけど、私だけではどうにもならなかったのもまた事実です。あの時は皆が私に協力してくれたから、私は出来ることを出来ただけなのです」
多分、ルーナにとってもあの大災厄は悔い残るものなのだろう。僅かに歪んだ横顔とさっきよりも少しだけ強く握られた左手がそう訴えかける。
「いざって時に、その時の自分に出来ることを的確に判断できるっていうのは褒められるべき才能だよ、それをその状況下で正確に発揮するのもまた才能だと思うし―――って何でまたこんな話になってるのさ、もっと明るくいこうよ」
「話を振ったのはサリーナですよ」
「えぇ? 私が悪いの?」
顔を見合せてクスリと笑うルーナ。ただ、直ぐに何かに気が付いたようだった。歩く足を一旦止めて今までとは別の方向に私の手を引っ張る。
「それよりも一つやる事を思い出しました。メルドスロアに行く前に冒険者ギルドに寄っていきますよ」
「ん? 何でまた、ルーナも冒険者登録するの?」
「しませんよ、この前支部長に呼ばれたのですよ、サリーナを連れ出せるようになったら一度ギルドに寄って欲しいと」
多分と言うかこれは確実に厄介事だ。
私の勘も経験もそう告げていた。
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