第四話
いきなり真っ白い空間で目を覚ましたかと思えば次に目を開けたときにはこの不思議な家のソファーの上にいた。それにその隣では知らない美人が寝ていたのだ。更にはその女性が何かを呟いたかと思えば何もなかった壁が奥へとスライドしてそこにあたかも最初からあったといわんばかりにキッチンが出現したのだ。
当然、そんな現場に遭遇してしまったからには逃げようとしたが、この部屋に扉はなくて窓には取っ手すらついていない上に一枚張りで開けるなんてことが出来ない始末である。この際手段は選んでいられないと、素手で窓ガラスを割ろうと振りかぶり窓の奥に広がっていた光景を目にした。それを見て逃げる気はすっかりなくなったしまった。夢だと思いたかった現実から少しでも気を紛らわせるためにキッチンを借りて料理をしたという訳だ、ヤエと名乗る彼女に膝枕をしていたのは彼女の苦しそうな寝顔を渚なりにどうにかしようとした結果である。
それが正しかったかどうかは定かではないが少なくともヤエが渚に敵対するということはなさそうだった。
そうこうしているうちに結局両者の意見がまとまるよりも早く机の上の料理がなくなったのだった。
「……随分とお腹が空いていたんですね」
若干、いやかなりの量があったのは確か。渚の目から見れば軽く五人前くらいは作ってしまってと思っていた。けれど、それがほんの十数分の間に完食されていた。
「そうだね、ちゃんとしたご飯は一週間ぶりくらいだよ。忙しいどころじゃないんだよね……そういえば最後に寝たのも一週間くらい前だったかな? まぁ、それはともかく早いところ詳しいことを説明しないといけないね、神崎渚ちゃん?」
「……転職、しないんですか? どう考えてもブラックですよね」
「まぁね、ただこれに関しては誰かがやらないといけないわけだし、そもそも転職したところでブラックなことは……って私のことは今はどうでもいいんだよ。ちょっと予想外に時間がかかってるから後が詰まっちゃうし、ちゃちゃっと説明をしよう」
ヤエが手を打ち鳴らすと机の上のお皿が無くなりそれまであった壁やキッチンすらも霧が晴れるように消えて無くなった。後に残ったのは今現在渚とヤエが座っている椅子のみだった。
「あの、さっきから何をしてるんですか? 何も無いところから何かを出したり逆に消したり、どうしてそんなことが出来るんですか?」
ここまで来ると渚もどうやら吹っ切れたらしく気になることが次から次へと出てくるようだった。今の渚の状態ではヤエの話も耳に入っていないことだろう、両肩を掴まれてゆさゆさと揺すられるヤエ。
「えーっと、だから私は神様なんだけど……とりあえず落ち着こうか、ね? ちょっと、そんなに揺らしても何も出ないよ。いや待って、別のものが出そう……渚ちゃん、ストうップ」
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