第百十九話

驚いた様子で小窓に振り返ったラクスライン。


「俺、待ち合わせをしてるって言ってたか?」


「いえ、何となくです。このトルテ通りは見ての通り女性のお客さんが多いですから、まぁスイーツ系の店やアクセサリー類の販売が多いので当然と言えば当然ですがそんなところにラクスラインさんが赴くような理由はないですよね。アクセサリーは普段から身に着けてはいませんしスイーツやそいうった物も以前得意ではないと話していたのを小耳に挟んだ事がありましたので。そうなればなれば私たちをここに連れて来るのは誰か甘い物が好きな方が待ち合わせ場所を指定したから。後は、誰かにあげるためのスイーツであったり小物を買うということも考えられたんですけどそれはさっきラクスラインさんが否定してくれましたから」


スラスラと語られるヘレナの推理にラクスラインは唖然、ソフィアも驚いたと目を見開いてる。


「というかヘレナ、考えても埒が明かないって言ってませんでした?」


少しばかり機嫌の悪そうなソフィアはそうしてヘレナの左隣、小窓の覗ける位置へと席を移す。


「いや、それを言ったのはソフィアじゃん。それにだからこうして本人に聞いたんだよ。他人がグダグダ考えるよりも本人に直接聞いた方が何倍も効率的でしょ?」


なにかおかしな事でもあるのかと疑問の表情を浮かべるヘレナ。その様子を見てなぜか呆れ気味のソフィアはため息をついて自分に「うん、そうでした。ヘレナはそういう人でしたわ」、と言い聞かせていた。


「ヘレナ嬢、確かにあんたの言う通り今日は俺と同業のある人と待ち合わせをしていた。あんたの言う通り甘い物が大好きな奴だ。なぁ、この際だから聞いておきたいんだがもしかしてそいつのあたりも付いてるのか?」


少しだけ悪い顔をしたヘレナはわざとらしく考え込んだような間を開けてから語り始める。


「…………ある程度予想は着きます。ラクスラインさんが普段からよく知っていてそれなりに親密ということですからただの冒険者ではなく冒険者パーティーのメンバーが濃厚です。そして言葉の端々から尊敬の念を感じられますから年上、あるいは先輩と言ったところでしょうか。以上を総合するとラクスラインさんが所属している冒険者パーティーのリーダーさん、ではないでしょうか?」


「いや、本当に驚いた。その通りだ」


小窓からラクスラインの本当に驚いた表情を見てヘレナはしてやったりとでも言いたげにチラリと舌を覗かせる。


「───ヘレナ、ズル……むぐぅ」


ラクスラインの顔を見ていたたまれなくなったのかソフィアが真実を伝えようとするが寸前でヘレナが彼女に覆いかぶさりその口を塞ぐ。

もう少しだけ付き合って、と目で訴えかけるヘレナにソフィアは顔を赤くしながら頷くのだった。

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