第六十六話
開け放たれた扉の方を見てソフィアとヘレナは揃って「ほぇ?」と間の抜けた声をこぼす。
「はぁ~い、みんな席につけ。出席を取る……お前はそのままそこでいいぞ」
勢いよく扉が開かれたと思えば教室をぐるっと一周見渡した白色の混じる赤髪の小女はヘレナのことを指さし開口一番そう告げた。
「なんで……」落胆するヘレナと対照に大喜びのクレアは離さないと言わんばかり、いや実際に相違ないのだろう。クレアはこれまでかというほどにヘレナのことを抱きしめていた。
「今日は別に大したことをするわけじゃない。ちょっと自己紹介してちょっと魔力測って解散だ」
その幼女はなんの迷いも無く教壇へと進みその前に立つ。
そうして軽く飛び跳ね教壇に腰掛ける。手に持った出席簿を開き少し曇った紫色の瞳をそこに落としながら再び教室、正確に言えば席に座る一人一人の顔を確認していく。
さっきまで賑わっていて教室も今は妙に静かになっている。
なぜかいきなり息を潜め背筋を伸ばして冷や汗を流すクラスメイトたちに、そもそも自分の目の前で教壇に座るのが誰なのかも分からず疑問を隠せないヘレナ。それと同様に状況の掴めないソフィアもまたキョロキョロと辺りを見渡す。そんな二人の頭を撫でながら満足そうに笑みをこぼすクレア。
この場ではその四人が異様に浮いた雰囲気を出していた。
「はぁ、こんな紙切れじゃやっぱなんもわかんないもんだらけ。なかなかどうして今年は奇っ怪な奴が多いようだ。にっしし、こいつはこれから楽しくなりそうだ」
何やらブツブツと呟いてからパンッ、と勢いよく出席簿を閉じ教壇から飛び降りる。
一気に緊張感を増す教室の雰囲気の中で軽くスカートの端を払って「さて、まずは自己紹介といこうか」と、少女は赤髪をなびかせる。
「私はミシェル。ここの教師は今年で五年目、ん? そうかもう五年か、長いようで短いもんだ……あぁ失礼、私がお前らに教えるのは実技がメインになるな。とまぁこんなもんか」
「なんか、ものすごく個性的な人だね、あの人。というか……みんななんか怯えてる?」
「ヘレナちゃん、あの人知らないの―――いや、知らなくて当然かな。あの人が引退したのヘレナちゃんたちが産まれた時だもんね」
何やら感慨深そうにどこか遠くを見るクレア。
「彼女はミシェル・ワーグナー。さて、どこから話したものか…………ヘレナちゃん、七賢者って知ってる?」
「えっと、確かこの国にいる七人の賢者のことだよね。それぞれの魔法を極めたと認められた魔法使いの総称、なんだよね」
『七賢者』
歴史に残る最初の記録はこのグレイスロアという国が出来るよりも百五十年程前まで遡る。
掻い摘んで簡単に言ってしまえばその七賢者はこの国を造った前身ということになる。その偉業に対して最大級の敬意と憧れを示す形としてその時代の国王が国の為に尽くした七人の魔法使いを選ぶようになった。それが今の七賢者の始まりである。
ただ、そのせいなのかおかげなのか時として七賢者は国王に次ぐ権力や発言力を持つ事もあり人によってはその代の国王よりも人気を博すということも稀にあったりしたらしい。それが問題となったこともあるのだがそれはまた別の話。
そんな彼ら彼女らにはそれぞれの得意とする魔法によって二つ名というか呼び名が存在する。
「そ、彼女はその七賢者の一人。土属性魔法の最高権威者、通称オニキス。冒険者としてもその実力は折り紙付きだよ、君のお母さんと比べても遜色の無いくらい、まぁ彼女とあの人は系統も違えば根本も違うから比べるのも野暮ってものだけど……とにかくそれが彼女、ミシェル・ワーグナー」
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