第百八十九話
「───ギルマス、サリーナ様を連れてまいりました」
そう言ってギルド二階突き当たりの扉をノックするルーベル。間髪入れず中からは「入って良いぞ」、と少々ハスキーな男の声が中から届く。
「では、私はここまでとなりますので」
「うん、ありがとう」
お辞儀をして去るルーベルに軽く手を振りながら私は短く息を吐く。
「───あぁ、億劫だなぁ。というかルーナはいつまでそうしてるのさ」
腕にしがみつき私のことを見上げるその姿は可愛らしいし愛らしい小動物のようではあるけれど、さすがにこの状態のままギルマスに会うというのは少しばかり、いや、かなりよろしくない。
「うにゅ、なんのことぉ」
あくまでも白を切るつもり、なのかとも思ったけれど少なくとも目はそうではなさそう。というか普段に比べて表情も含めてトロンとしているという事は、やはり酔っているのは間違いないのだろうか。
それにしては一つ一つの行動にちょっとした作為を感じるのだけれど。
「いつまで私の腕にしがみついてるの?」
「聞かれるまでもないよぉ、そんなの私が満足するまでに決まってるじゃん」
酔っているとより一層、ルーナの我儘が強化されるなんて果たしてこれからの私の人生にとって有益な情報なのだろうか。
「はぁ、まぁいいか。とりあえず今はギルマスに会わなきゃ話は進まないからね。頼むから余計なこと口走らないでよ」
私自身、この状態のルーナを今までに見たことがない。だからこの先に起こることなど想像するしかないのだけれど、これまでの状態から考えて彼女が普段よりも自分の感情に正直になっているのは間違いない。つまり今のルーナはたとえそれがどんなに失礼なことであったとしても包み隠さず直球で聞くのは想像にかたくない。
「もぉ、サリーナは私をなんだと思ってるのぉ。今の私は最高に気分が良くて、なんだって出来そうなんだから」
「───だから心配なんだよ」
本当に普段とは何もかもが違いすぎる。
というか、アルコールに強いと言うよりも極端に弱い可能性がでてきた。そもそも普段の自制心が働いているなら別人格なんて出てこないよね。
なんて私がため息混じりに考えていると、ルーナがなんの躊躇いもなくいきなり目の前の扉を引き開けた。
「ちょ───」
「たのもぉ〜」
私の制止の声は届くことがなく、ルーナの間延びした掛け声が部屋の中に響いた。
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