第百九十話
冒険者ギルドアレイスロア支部ギルドマスター、ラングロッサ。ギルド長としてはある意味正解とも言えるのだろう隆起した筋肉とその背丈、そこから溢れる雰囲気は未だに現役の冒険者と言われても何ら不思議には思わない。まぁ、元冒険者なのだから少なからずその名残はあってしかるべき、なのかも。
『
「うむ、まずは座りたまえ」
どういうことか常に上半身はベスト一枚の彼は今日も変わらずギルドの支給品である緑色のベストだけを羽織って机に両肘を着いている。少しばかり変態チックなその様子は初対面では思わず魔法を打ち込みたくなるものである。少なからずそれは数回会った今でも変わることは無い訳なのだけれど、冒険者でいる間はそれができないのだから少しだけ残念でもある。
「ねぇ、なんで半裸でベストなの?」
ほら、言わんこっちゃない。
今まで黙っていたルーナがおもむろに口を開いたと思ったらこれである。まぁ、大抵の人が初対面でそう思うのは間違いないのだろうけど。
「うむ、名残、と言うのが一番近いかも知れませんな。何だかんだこの姿が落ち着くといいますか―――」
「臭そうぉ」
容赦ない、なんてもんじゃない。
本当に、こればっかりはギルマスに同情する。
「……ルベナリア殿は冗談もお上手なようで」
「ん? 本心ですけど?」
もう、可哀想なんてもんじゃない。というかそろそろルーナの口を塞がないと色々と問題がある。美少女にここまで言われて崩れ落ちないだけでもギルマスは称賛されるべき、ってそうではなくて。このままルーナを喋らせておくと本当に何を言い出すか分かったものではない。
そんなわけで私はルーナの太ももを軽くつねっているわけなのだけれど、さすがのギルマスも今の一撃には堪えたようで何度も口をパクパクと開閉している。
「は、はは―――スゥー、全く、敵いませんな。さ、さて、サリーナ殿、お主をここに呼んだ理由であったな。ただ、お主は聡明だからの、勘づいてはいるのではないか」
腐っても元冒険者、曲がってもギルドマスターという事だろうか。確かにこんななりではあるものの一から大都市のギルドマスターに成り上がるだけの器量の良さは持ち合わせているというわけだ。
よろよろと対面へと移動してきたラングロッサはため息混じりに私たちの対面の長椅子に腰掛ける。
「……それで、単刀直入に聞こうか。何があった?」
一転して場に緊張感が走る。
こういうところだけは本当に貫禄がある。本当にこういうところだけなんだけどね。
「……ノストラル。知らない名前じゃないですよね。その構成員に不意をつかれました。あ、それと水もらえますか? 見ての通り酔っぱらっていますので」
「いや、待て。確かにその名はよく知っている。だが、それだけでサヘラ区画が消滅したのとお主が過去に類を見ない大怪我をおったのは説明が出来ないであろう。それと水はそこの水差しの中だ……そうか、酔っ払って」
ギルマスの安堵の息を無駄にするのも可哀想なので一応黙っておくけれど、少なからずルーナは今の状況で嘘はつかないし冗談も言わない。
「……私はあの日とある理由でサヘラ区画のノストラルの拠点を潰して回っていました、で最後の一つって時に思いもよらない刺客が現れたんです。多分剣技だけなら私は負けてたでしょうね。かろうじてそいつを倒した訳だけどそいつが置き土産とでも言うように魔力暴走を引き起こした、その後は言うまでもないでしょ」
コップに注いだ水をルーナに手渡して、再び私が長椅子に腰掛けるとラングロッサは今までで一番深刻な表情を浮かべる。
「うむ、問題はそこだサリーナ殿。お主は魔力爆発の威力自体を抑えたりしたか?」
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