第百九十一話

 ラングロッサの疑問に私は首を傾けつつルーナからコップを受け取る。


「いや、あの状況で自分の生存以外に思考を巡らせる余裕なんてありませんでしたよ。そもそも私は耐えられるとも思えなかった。正直、今度こそは本当に死んでしまうと覚悟していたくらいです。そもそもあの規模の爆発、威力を逃がすならまだしも抑えるなんて仮に七賢者私たちにだって荷が重いでしょ」


 そもそも、魔力爆発なんて前例のない攻撃なんて防ぐも何も無い。魔法であれば相反する属性をぶつければ多少ではあるものの効果を妨害する事は出来る。とはいえそれでも威力を完封することは出来ないのだ。


「であれば、やはりお主以外にあの場所に誰か、それも七賢者に匹敵あるいは凌駕する者がいたのだな。となると―――」


「私以外に、誰かいた?」


「ああ、お主も知らないわけではないであろう。魔力暴走から引き起こされる魔力爆発は一都市を簡単に消滅させることができるということを」


「それは知ってますけど、あくまで伝承では、ですよね。実際に観測した記録は無い訳ですから、規模がどれ程になるのかなんて分からないはずでは?」


 とは言ったけれど、さすがにあのレベルの怪我を負ったのは久しぶりだったし何より街の被害を聞いた時に「それだけ?」、と疑問に思ったのは事実だ。ただ、少なくともサヘラ区画は更地になっているのだからその影響は確かにあったはずなのだ。


「魔力暴走が臨海に達した時、必ず魔力爆発の前兆が発生する」


「……えぇ、空間が歪んで、そこに吸い込まれるような現象ですよね」


「今ギルドにはその歪みを感知できる魔道具が置いてあるのだ。あの日も突如その魔導具が起動したのだが、魔道具の特性上感知できる範囲はそこまで広くは無いんだ。せいぜいが都市のはずれにある領主様の別邸くらいまでしかない、まぁ魔道具の説明は置いておこう、とにかくそれが起動したということは言うまでもなくこの都市に危機が迫っているということにほかならない」


 多分、ギルマスも分かって説明しているんだよね。魔力の暴走を感知するならまだしも暴走後の歪みを感知するというのは魔道具としての存在価値は殆ど無い。

 だって詰まるところその魔道具で知れるのは自分たちが自分たちではどうしようもない状況に置かれているということだけなのだから。


「ギルマス、その魔導具何の為にあるの?」


「儂も知らん、そもそも厳密に言うならあれは魔道具マジックアイテムではなく古代異物アーティファクトだということ、製法も目的も今となっては闇の中であろう」


 古代異物アーティファクト、遺跡などから出土した魔道具と思しき物が呼ばれる総称である。

 まぁ、ざっくりと簡単に言うなら魔道具である事は分かるものの使い方の分からない魔道具というのが適正かもしれない。基本その作成方法や用途、目的は不明瞭なものが多いが中には使い方次第では一国を滅ぼせる殺戮兵器も存在しているとかいないとか。

 そういった諸々を踏まえて基本的にアーティファクトは国が管理するという扱いになっている。だから、本来であればここにそれがあるというのも不思議ではあるけれど……まぁ、そこにはそれなりの理由があるのだろうし、面倒事の匂いがしているのは言うまでもない。絶対に関わりたくないとすればこれ以上この話は続けるべきではないだろう。


「それで、結局のところどうしてそれが私以外があの場所にいたという証明になるのですか?」

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