第六十三話

「学院交流戦、そこではそれぞれの学院で選ばれた生徒がその名の通り交流し戦う、そこで―――」


「嫌です」


 こうした話題が出される場合それは十中八九その交流戦への参加を求めるものである。そしてそれは確実に何らかの事件を巻き起こすもの、それが分かっているからこそヘレナはリブライトに提案される前に即答で拒否したのだ。


「どうせ私たちにその交流戦に出ろって言うのでしょう。そんなのに出れば色々と面倒事を呼び込みそうですし、何よりその交流戦は言わばこの学院の名誉をかけたものですよね、ならば出場すべきなのは……」


「待て待て、言いたいことは分かる。だからこそ話は最後まで聞いてくれ。この学院交流戦には学院間で決められたルールがいくつかあるんだ」


 全力で拒否するヘレナを制して立ち上がったリブライトは自分の机からカップを取り上げてそれを片手に改めて二人向かい合って説明を始めた。


「一つ、交流戦に参加する選手はそれぞれの学院の職員並びに学院長によって九名選出される。二つ、九名内一人はその年の入学試験の首席とする。三つ、交流戦では殺傷能力の高い魔法及び相手に致命傷を負わせる攻撃の一切を禁じる。四つ、交流戦は勝ち抜き戦とする。当然それによって順位がつくがそれは学院の優劣を示すものでは無い。五つ、これは他校を知ることによってよりそれぞれの学院の持つ力を高め合うことを重視する。とまぁ、そもそもこの交流戦には入試の首席を出さないといけないんだ」


 指折りルールを二人に伝えた彼は静かにテーブルにカップを置く。


「つまり、ヘレナとソフィアちゃんは交流戦には出場してもらう、というかしなければならないんだ」


「でも、一年からは一人なんでしょ?」


「いや、毎年各学年から三人ずつ出場しているぞ。ルールには無いがまぁ、暗黙の了解ってやつだ。それに何も俺はその試合で勝てなんて言ってないぞ。参加してくれるだけで十分なんだよ。もとより上級生とは習ってることもやってる事も違うんだ勝てなんて言う方が難しい、勝ったとしてもまぐれ負けたとしても当然だ」


「ふーん、いいですよ。そこまで言うなら出てあげます。では私たちはこれで」


 カップの中に残った紅茶を一口で飲み干してから立ち上がったヘレナはリブライトの制止の声に耳を傾けることもなく大きな扉へと進んでいく。傍らで名残惜しそうにクッキーを頬張るソフィアの手を引っ張ってヘレナは学院長室の扉を押し開けた。


「失礼いたしました」


 静かに振り返ることなくそう言い放った彼女はわざと大きめの音を立てて扉を閉めた。

 しばらくしてやっとのことで頬張ったクッキーを飲み込んだソフィア。「ヘレナ、怒ってるの?」そうして彼女の手を引っ張る。

 歩みを止めたヘレナの顔を覗き込むソフィア。


「……別に、ただ少し見返してやろうかなって」


「ヘレナって噓をつくのが下手だね」おそらくこの場にいれば十中八九皆が口をそろえてそう言う事間違いないふくれっ面のヘレナを見てソフィアはくすりと笑い「私も一緒に頑張るよ」と、彼女に抱き着くのだった。

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