第六十二話
入学式は無事に終わり、生徒は各々が割り振られた本棟の教室へと向かって移動をしている。
この学院は三年制となっている。教室は上の階、つまり三階から一年生の教室があり二階は二年生、一階は三年生の教室となっている。
要するにアリーナにいた生徒が一気に一階から三階まで上がらなくてはいけないのである。おかげでアリーナから一番近い階段は既に人で溢れている。
「ソフィア、こっち」
人の波に溺れかけていたソフィアの手を引っ張ってヘレナは本棟一階の廊下へと足を進める。一階は三年生の教室や教員室がある。普段なら当然ここには他の生徒がいるのだが今日は入学式だけなのでそこには生徒や教員の姿はなく二人が歩く廊下はさっきまでの喧騒が嘘のように静かだった。
「ヘレナ、ちょっといいか?」
不意に呼びかけられ驚きと共にヘレナの袖を握り締めるソフィア。そんな彼女の手を握って庇うようにヘレナが振り返る。
とはいえヘレナは声でわかっていたのだが、そこには扉の奥から半分ほど顔を覗かせる彼女のよく知る人物が立っていた。
「と―――学院長。何ですか? 私たちは教室に行かないといけないんですけど」
「まぁ、そう冷たいことを言わないでくれよ。少しだけ話しておきたいことがあるんだ。ソフィアちゃんにもな、それにごめんな。そこまで怖がらせるつもりはなかったんだ、それに君らの担任には話を通してあるからさ」
顔を見合わせた彼女たちは手招かれるまま学院長室へと足を踏み入れた。
二人には少し大きな扉をくぐったその先には流石は国立の魔法学院なだけあってかなり豪華に内装が造られていた。
二人はリブライトの案内のまま真っ白なソファーへと招かれる。二人が座るであろうソファーの前にはまるで二人がここに来ることが分かっていたとでもいうように二つのティーカップとクッキーが置かれている。
「ヘレナっ!」
先に腰かけたソフィアが真剣な表情で隣に座わろうとしたヘレナを見つめる。あまりにも真剣なその表情にヘレナが何も言えずに中途半端は格好で固まっているとソフィアは「このクッキー、とっても美味しいです」と、そう言って破顔した。
「良かった、ね?」
それはもう本当に美味しそうにクッキーを頬張るソフィアを横目にヘレナも目の前に置かれたクッキーを一つつまみ上げる。
(なんか見た事あると思ったら、このクッキー私が作ったのじゃん)
紅茶と一緒に軽くクッキーをかじったヘレナはため息をこぼす。
「気に入ってもらえて何よりだ。私もこのクッキーは大好物でね、何がいいかって―――」
「こほん、それで学園長、お話というのは?」
「おぉ、そうだった。お前たちは知らんかもしれんが二ヶ月後に学院交流戦というものが開催されるんだ」
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