第六十八話

 ミシェルに連れられ教室を後にした一同は水晶室なる所へと案内されていた。


「ソフィア、どうしたの?」


 なぜか何も言わずにただヘレナの右腕を両手で抱き寄せるソフィア。ヘレナと目を合わせようとはしないがその顔は横顔からでもわかるほどふくれっ面であった。

 特に心当たりのないヘレナは困惑顔だったがクレアはその様子を見て楽しそうに微笑むのだった。

 そうして結局、水晶室に辿り着くまでソフィアはヘレナに抱き着いたままだった。

 水晶室には魔力を測定するための水晶がいくつか用意されている。水晶、とりわけ魔力水晶はとても高級なもの、そのためこの部屋には鍵がかけられているし扉も教室にあった扉なんて目じゃないくらいに頑丈で分厚く作られている。


「ちっ、去年あいつにここの鍵錆び付いてるから交換しろって言ったのにな」


 鍵を差し込んで何度かガチャガチャするミシェルだったがどうやら鍵は開かないようだった。「あぁ、もうめんどくせぇ」そう呟いた後に扉に向かって回し蹴りを繰り出した。

 本来ただの回し蹴りなんかではどう頑張っても開けることはできない、できないはずなのだが、衝撃音に耳をふさいだ生徒たちの目の前には半分だけ蹴り開けられた扉があった。


「ヘレナ、この扉すっごく硬そうなんだけど。というか私じゃ動かせない」


「流石七賢者、っていうのが正しい……のかな?」


 その後ヘレナとソフィアの二人で残ったもう半分の扉を押したり引いたりしてみたがやはり扉はびくともしなかった。


「いや、七賢者でもここの扉をこんな風に開けられるのは二人しかいないよ」


 苦笑するクレアをよそにミシェルは他の生徒たちに暗幕と窓を開け換気をするように指示していた。

 しばらくすると埃っぽかった部屋の空気もだいぶましになりミシェルは生徒を部屋の中へと入れた。


「全く、掃除くらいしろってんだ。はぁ、予想以上に疲れたが今から魔力測定をする、名前呼ぶから適当にその辺にいろ。あ、くれぐれも壊すなよ、私から見ればただのガラクタでしかねぇがこの部屋には白金貨数十枚相当のものもあるんだと」


 ワクワクと探索をしだす生徒たちであったがミシェルの最後の一言で全員の手が止まりついでに足も止まった。


「ねぇ、クレア。どうして入学試験の時じゃなくてクラス分けが終わった後に魔力を測定するの?」


「吞気だね、ヘレナちゃんは。そこもまたかあいいけど。で、クラス分けの後に魔力を測るわけだっけ。それはね、この世界では魔力があっても魔法は使えないからだよ。適性云々うんぬんは抜きにして今ここでリヒトを発動させてみて、って言ってもできないでしょ。つまり、この世界では魔法に最も必要なのは知識。例えば火属性最低位魔法であるファイアボールに火属性最上位魔法のヘルフレイムを発動させることの出来るほどの魔力を注ぎ込んだら魔力は暴走して大爆発を起こす。その逆に大規模の魔法にそれ相応の魔力を注げなければ魔法使いは魔力切れを起こして失神、最悪そのまま死に直結することもある。前者にしても後者にしても魔法がどういうものなのかといった知識があれば未然に防ぐことが出来る。だから最初の試験では魔法を扱うにあたってどれだけの知識、理解があるかでクラス分けがされている、らしいよ」


 そんなことを話しているうちにソフィアの名前が呼ばれたのだった。

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