第百二十一話
しばらくするとさっきの店員と一緒に白い髭をはやしたいかにもベテランという雰囲気を纏った初老の男性がヘレナたちを出迎えた。
「お待たせして申し訳ございません。店長のビスと申します。二階の方にお席を準備致しましたのでどうぞ、ご案内致します」
そう言って白い長袖のコックコートを着たビスは頭を下げた。その所作にはソフィアも思わず感嘆の声を洩らしラクスラインも無意識に背筋を正していた。
ヘレナだけはその凄さがいまいち理解できずなおかつ店長が出てくるという事態に困惑し曖昧に頭を下げる。
「なんて言うか、罪悪感がすごいんだけど」
馬車から降りた三人は店長に案内されるまま入口横にある階段を登っていた。
「……ヘレナ嬢の感覚は貴族様と言うよりかは俺達に近いよな。なんて言うか俺の想像する貴族様とは全く違う。言っちゃ悪いが貴族ってのはもっと横柄で傲慢なのばっかりなのかと。ちなみにだがソフィア嬢は罪悪感とか感じるのか?」
ラクスラインの一言にむっ、と頬を膨らませるソフィア。
「その言い方は釈然としませんが、今回に限っては特にそういったことは感じません。だって別に私たちは悪いことは何もしてませんもの。私たちはただ店先に馬車を停めただけ、案内したのは店長さんなのですから私たちが何かを言われる筋合いはありません。それに待ち合わせすることが大丈夫ならお客さんはそういったことも承知で並んでいるのではありませんの?」
「ところどころ見え隠れするソフィアのその神経の図太さには本当に脱帽だよ」
「……ヘレナ、それ褒めてますの?」
にじり寄るソフィアにヘレナは慌てて頷く。とはいえ実際ヘレナの感想はその通りでソフィアは五歳ながらに貴族というものをよく理解している。ただ彼女の場合凄いのは理解しているという事ではなく理解している上で違うことは違うと言えるということだった。
「いえ、本当にその通りですよ。
後ろで盛り上がる会話にそう言ってビスが優しく笑いかける。そうして階段を登りきったところにある扉を押し開けた。
「「「……うわぁ!」」」
招かれるまま中に足を踏み入れた三人は揃って驚きの声をあげる。
真っ赤なカーペットに真っ白な壁、真ん中に堂々と置かれている机と椅子、それだけではない。壁に掛けられた絵画や傍らに何気なく飾られているアンティークに至ってもどれをとってもその部屋は高級品で彩られていた。
入り口で固まる三人に先に部屋の中にいた女性が頭を下げる。
「本日はお招きありがとうございます。バルトホルンのご令嬢」
物静かな印象を受ける彼女は他と比べるといくらか低い声のトーンでそう告げた。
その様子を見てラクスラインが慌てて彼女の傍らに駆け寄る。
「あぁ、紹介が遅れた。こいつが俺達のリーダー、カサンドラだ」
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