第百三十一話
「カサンドラさん、ヘレナってどんな感じ何ですか?」
「やっぱり気になるの?」
「うん」、とソフィアの短い返事を聞いてカサンドラはゆっくりと口を開いた。
「そうだね、最初に触れた時に感じたのは優しい暖かさ。そう、例えるなら暖炉みたいな、包み込んでくれるような温かさ。多分彼女の纏う雰囲気がそう錯覚させたのかも、だからね、その温かさはどこか空っぽだった。暖かくはある、優しくもある、なのにどこかが何かが足りてない、そんな感じ」
そうして目の前のカヌレに手を伸ばすカランドラ。その表情はどこか昔を見ているように懐かしげであった。
「多分、ソフィアと同じだと思う、警戒や不審、疑心を感じる相手に相対した時彼女の場合は貴方と違ってとりあえず仮面を被る」
とはいえそれはヘレナに限った事では無い。初対面の相手には誰であれ多少なりとも警戒心を持つものだ。ソフィアのように感情が顔や行動に出やすかったとしても胸の内では何をどう考えているのかなんて分からない。
もし仮に初対面の相手を無条件で信用出来るというならその人は底無しのお人好しか何も考えていない阿呆であろう。
「私みたいな人は珍しいの?」
「平民、とりわけ冒険者で見れば珍しくは無いね、なんと言っても目を合わせただけで武器を引き抜いてくるような無法者もいるくらいだからね、それと比べればソフィアのは随分と可愛いものだね。ただ、貴族としては珍しいと言わざるを得ないかな。そういうことならヘレナの方が貴族らしいね、貴族は誰かに会う時は感情を隠す。決まったように貼り付けた笑顔を浮かべてね」
「なら、ヘレナは私と話す時にもその仮面を付けてるってことですの?」
カサンドラのその一言に敏感に反応したソフィアは小刻みに震える手でティーカップを持ち上げる。
「ううん、そうじゃないよ。ヘレナの仮面と貴族の仮面は全くの別物だよ。貴族の仮面は表面とりわけ表情を隠す、対してヘレナの仮面は内面を隠す。多分、ヘレナは自分が信用してない人とは全く会話をしないんじゃないかな。だから心配しなくても大丈夫だよ」
「カサンドラさんがヘレナを気に入ったのもそういったところですか?」
「いや、確かに面白いとは思うよ、それに優しいのも十分に美徳なんだけど彼女の場合はそれだけじゃないんだよ。ヘレナは優しさと同じくらい中が冷たいんだよね。まるで───」
「遅くなりましたぁ。いやぁ、なかなか上手く飛んでくれなくって……うーん、なんか、二人とも仲良くなった?」
ここぞというタイミングでヘレナが扉を押し開ける。そうして続くように振り返ったラクスラインが疑問を投げかける。
「おう、ヘレナ嬢。何してたんだ?」
「ちょっとばかり助っ人を呼んでたんですよ。さすがに三人ではきついと思ったんですけど、カサンドラが起きたなら要らなかったかも」
ヘレナは店の外である魔術を使っていた。
『デリバリー』、読んで字のごとく対象を任意の相手に送り届ける魔術である。ヘレナはこれを使ってペーパーナプキンをメールとしてある人物に送ったのだ。とはいえただペーパーナプキンを送り付けても相手が困惑するだろうと思いちょっとばかり工夫を加えようと思ったら実に想像の倍以上術式の構成が面倒くさくなったのだった。
「助っ人? それは楽しみだな。カサンドラも本調子ってわけじゃないからな、念には念をってやつだ」
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