第百五十四話
「本当に目ざといというか鋭いというか、少なくとも王都に着くまでは言うつもりはなかったんだが、私はそんなに顔に出るか?」
ついついこぼれたリブライトの諦め混じりの問いかけにヘレナは逡巡する。
「……そんなことは無いと思います。多分でしかないですけど、とーさまと私は産まれてから一緒にいる訳ですから。それだけとーさまと一緒にいる期間が長いわけです、とーさまは私と話すときに自分を作ったりしないですよね? もちろん私もそうですけれど。警戒なんてしない自然体、もっと言えば油断しているわけですからそんな状態なら私でもちょっとした癖や視線でそれとなくとーさまの言いたいことは分かったりはします。とーさまだってかーさまの考えていることや私の考えていることが分かることがあるんじゃないですか。でもそういった意味では私なんかよりかーさまの方が余程とーさまの嘘や隠し事には詳しいと思いますよ。人間自分の事よりも他人の事の方が理解しているなんてよくあることです、それが大切な人ならなおさら―――というか私に会わせたい人のことは教えてくれないんですか?」
「ん、ううん。会ってからのお楽しみということにしておこう。そういえば講義はちゃんと受けているのか。ヘレナのことを教師たちに聞くといつも寝ているという返答しかでてこないんだが」
右手で頬を軽く搔きながら話を逸らすリブライトを片目にヘレナは紅茶を口に含む。それをゆっくり飲み込んでから静かにカップをソーサーの上に戻してから彼女は真剣な顔つきでリブライトを見つめる。
「……とーさまはテストで満点を取る生徒と赤点を取る生徒がいたらどっちを評価しますか?」
「───まぁ、普通は満点を取る生徒だな」
「そうですよね。なら満点を取っていた生徒が講義を居眠りしていたとしてテストの点数が下がりますか? 逆に赤点を取った生徒がちゃんと講義を受けていて頑張っていたとしてテストの点数が加点されることはありますか? 無いですよね、あくまで態度は態度、テストはテストです。そしてテスト以上に事の理解を確認するのに向いている手段は無くて、仮にもそれで満点を取っているなら成果はちゃんと出ているわけです。講義を受けていなくても満点が取れるなら講義を起きて聞いている必要はありますか?」
「───ふっ、ふははは。なるほど、どう足掻こうともお前は私の娘ということだな、ヘレナ」
ヘレナの返答の後、リブライトはひとしきり笑い、彼女に向き直る。
「だが、それは結果が出ているから言えること、結果が出せなければそれはただの屁理屈でしかない…………私の言いたいことは分かるだろう。少なくとも意見を通すには力がいる、実績や成果という大きな力が。だから私は大いに期待するとしよう、ヘレナのそれが虚勢では無い事をな───。と、ヘレナ。おかわりを頼む」
差し出されたカップに紅茶をいれながらヘレナは嬉しそうに呟いた。
「私、とーさまのそういうところ大好きです」
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