第五章 いざ、学院生活
第七十六話
「ヘレナちゃん、おはよ……なんか眠そうだね」
教室の扉を開けると待っていたと言わんば……実際に待ち構えていたクレアがヘレナの両脇を抱え持ち上げる。入学式以降このクラスではこの光景が普通のものにとなりつつある。ただ普段であれば少しばかりの抵抗をするヘレナなのだが今日はやけに素直にクレアに抱えられた。
不思議に思ってクレアがヘレナの顔を覗くとヘレナはすでに目をつむっていた。さすがにこの速さで寝入ることはないだろうと思うクレアではあるがヘレナはだいぶ疲れてるのだろう。最近やけにボーっとしているのことの多いヘレナであるが今日は群を抜いておとなしかった。
「何かあったの?」
ヘレナに続いて教室に入ってきたソフィアにクレアはたまらず質問する。
「いつも通りの夜更かしですよ。でも今日は特にひどいです、レナリアさんの説教の途中にも寝てたくらいですから相当遅くまで起きてたんだと思います」
ため息混じりにそう呟くソフィアであったが内心では相当心配しているのだろう。さっきから事あるごとに指に髪を巻き付けている。
「しっかし寝顔もかあいいね。もう何をしててもヘレナちゃんはかあいいよ」
そうしてクレアは何の躊躇いもなく自分の膝にヘレナを座らせて優しく頭を撫でる。
「それにしても最近、入学式から二週間くらい? ずっとこんな感じじゃない、本当に大丈夫なの?」
「ヘレナは一度やるって決めると止まらないんです。周りの声も全く聞かなくて、サリーナ様もレナリアさんも半ば諦めているんだと思います。怒っているというよりも心配しているようでしたから。それに部屋にも入れてくれないんですよ。前にこっそりと入ろうとしたんですけどしっかり鍵がかかっていて……」
「ん? ヘレナちゃんって寝起きが悪いんじゃなかったっけ、レナあたりが起こしに部屋に入ってるんじゃないの?」
入学式の突撃のあともクレアはちょくちょくヘレナの屋敷を訪れるようになっており中でも年の近いレナリアとはかなり意気投合したらしく互いに愛称で呼び合うようになっていた。そのせいもあってその度にサリーナの精神がゴリゴリと削られていたのはまた別の話。
「それが、最近私が起きるころには起きてるんです。相変わらず眠そうにうつらうつらしてますけど」
「それにしたって本末転倒でしょ。今のヘレナちゃん学院に寝に来てるようなものだよ。学院対抗戦もあるしその後には学期末試験もあるんだよ、というかそろそろミシェルに怒られる、今までなあなあで誤魔化しているとはいえ今週からは実技もあるわけだからね」
「…………私じゃなくてヘレナにそれを伝えてほしいですよ」
「それもそうだな」
そうして二人は声をそろえて笑いあった。
(好き勝手言ってくれちゃって―――)
薄っすらと目を開けて二人の会話を聞いていたヘレナは心の中でそう呟いてから再び瞼を閉じるのだった。
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