第七十話
ひとしきり笑った後にミシェルは生徒を教室へと連れ帰った。教室に戻るまでにも彼女は随分と機嫌良さそうに「愉快愉快」と笑っていたがヘレナにとってはそれどころではなかった。
「ヘレナちゃん、なにしたの?」
教室に着くや否やクレアはヘレナを抱きかかえそしてそのまま流れるように膝へと連行した。抵抗も虚しくなんて言ってる暇すらなく問答無用で連れ去られていた。
お腹に腕を回されがっちりと拘束されたヘレナはチラッとソフィアを見る。その瞳は彼女に助けを求めていたが今回ばかりはソフィアもクレアの味方のようだった。こくこくと頷く彼女はまじまじとヘレナの顔を見つめている。
ため息をついて諦めたヘレナは「私だけ別日に測定し直しだって」と、二人にそう告げた。それだけではいまいち状況を掴めないソフィアは首を傾げたがクレアはどうやら状況を理解できたようだった。
ふふっ、と笑ってヘレナの頭を優しく撫でた。
「大丈夫、ヘレナちゃんのせいじゃないから。聞いた話だとあの水晶はもう十何年も交換してないらしいから。寿命だよ寿命」
「クレアさん。どういうことですの?」
相変わらず状況の掴めないソフィアはクレアの腕を掴んで揺する。
「うん、ヘレナちゃんが測ろうとしたときに水晶が壊れたんだよ」
「水晶って壊れるんですの?」
「結構簡単に壊せるよ。簡単な話、落としたら割れるしね。そういった故意的な原因じゃなかったとしたら水晶が壊れる要因は大きく分けて二つ、一つは長期間の使用による経年劣化。まぁ、こればっかりは水晶に限ったことではないけど。んで、二つ目は短期間での魔力の過剰供給、何事にも限度と限界があるってことだね。多分今回は運悪く二つが重なったんだろうね。私もそうだしソフィアちゃんもなかなかの魔力量だったみたいだし、そもそも今年の入学生はだいぶ粒ぞろいのようだからね。このクラスが最後ならそれまでに少なくとも二百人近くは一日で測定してるわけでしょ、そりゃあ限度超えるわけだよ。ただまぁ、ヘレナちゃんに怪我がなくて良かったよ本当に」
その言葉に敏感に反応したのはソフィアだった「水晶が壊れると怪我する可能性があるんですか!」と再びクレアの腕にしがみつく。
「うん、落ち着いて。ソフィアちゃん」
腕を掴まれ左右に揺さぶられるクレア。かなり激しく揺さぶられていたのだがその顔は満更でもなさそうだった。
「普通に経年劣化ならひびが入る程度だから特に問題は無いんだよ。強いて挙げるならひび割れた水晶片で指を切るくらいかな。ただ過剰供給の方は最悪水晶が四方八方に弾け飛ぶらしいからね。そのせいで片目が見えなくなった人もいるって話だし……とすると普通に経年劣化だったのかもしれないね。水晶が弾け飛んだような音はしなかったし、ミシェル……先生も笑ってるだけだったしね」
気にすることないよぉ、と言わんばかりにヘレナに頬を擦り付けるクレアであったがヘレナはどうにも浮かない表情であった。そして何より今の会話を聞いていてヘレナにはまた別の疑問が浮かんできたのだった。
(確かに弾け飛びはしなかったけど……あの時、水晶にひびなんて入ってたっけ?)
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