第四部 ヘレナ、王都の片隅で
第百九十七話
「とーさま、王都の魔法学院ってどんな感じですか? 広いですか?」
「ヘレナ、みっともないぞ」
すっかり暇を持て余したヘレナはリブライトとは反対側の座席でゴロゴロと器用に寝返りをうつ。
「だって、他にすることがないんですもん。それにとーさま以外中には誰もいないのですからいいじゃないですか」
ヘレナも最初こそわくわくと窓の外を眺めていたが流石に馬車に揺られて二日も経てば周りの景色の珍しさも薄れてくる。
そもそも、彼女が思うようになにかがあるわけではなかった。広がる平原と澄んだ空、まさしくそれは平和そのもので日頃の冒険者たちの血と汗と涙の結晶の賜物なのは言うまでもない、それはヘレナも重々承知している。
でも少し、ほんの少しも期待をしなかったかといえばそれは違う。彼女は楽しみだったのだ、初めて出る都市の外、知らない世界に胸踊らせていた。欲を言うならばメイドのセクタールが遭遇したという魔物なんかを拝見出来ないものかと、あるいはもっと別の何かでも良かった。
でも、現実というのはいつも決まって期待外れなものなのだ。
「分かった分かった、話してやるからとりあえずちゃんと座ってくれ。変なシワなんかつけたら俺がドヤされるんだからな」
「そういえば、というか今更ですけど今回かーさまは一緒ではないのですか? 遅れてくるのですか?」
「ん、あぁレイテも誘ったんだがな。どうにも学院でやらなければいけないことがあるそうでな、断られた」
ため息とともにあからさまに肩を落とすリブライト。
「んで。まぁ王都の学院の広さだが単純に敷地の広さだけならうちの倍はある。とはいえ半分以上は魔法省が管理してるからな。学院の規模としては正直大差ない。生徒の数も今年はそこまで差はなかった。何より土地柄的に集まる生徒も基本貴族だ」
「平民では入学できないのですか?」
「いや普通に入学することは出来るぞ。ただ、よほど成績が良くない限りは二棟だからな」
「にとう?」
不意に響いた聞き慣れない単語にヘレナは首を傾げる。
「あぁ、王都も街のつくりは基本的にアレイスロアと変わらない、貴族街と平民街といった感じに城壁で北と南で分かれている。学院の敷地はちょうど城壁を跨ぐように北に一棟、南に二棟があるんだ」
「壁で区切られているのですか? 同じ学院の生徒なのに?」
「あぁ、そもそも学院は平民に門戸を開いてはいなかった。貴族による貴族の為の学舎、それこそが本来の在り方だ。在り方だった、それを変えたのは私の祖母だ、ヘレナからすれば曾祖母だな」
「どんな人だったのですか?」
「とにかく優しい人だった。どこまでもそれこそ底無しに、そしてどこまでも強情な人でもあった。『貴族であれ平民であれ命は一つ、その命には優劣などなく共に等しく尊いものである』、と小さな頃から教え込まれたよ、事実その通りだと思うし、祖母は立派であった……私が知る限り祖母は最後の最後まで気高かった」
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