第四十六話
「あの、さっきからあっちの方から物凄い音が聞こえるんですけど……」
ヘレナが『焼き串』と彫られた看板の屋台でソフィアから頼まれた焼き鳥を買っているときだった、空気を揺らすほどの振動が風と共に吹き抜けたのだ。
「ん? あぁ、どうせサヘラからだろうよ。いつものことだから気にしなくていいよ」
「え、いえ、そうではなく……えぇ?」
屋台のおばさんから帰ってきた返答は素っ気ないもので。その様子にヘレナは大きく首をかしげていた。
というのも、聞こえているのは騒音などではなく明らかに爆音、さらに言うのなら本当に何かが爆発したかのような音なのだ。
「去年だって一昨年だって似たようなことがあったんだ。ただ、今年は去年のようにならなければいいけどね」
おばさんの塗ったタレが炭火に垂れてジュゥーと香ばしい匂いと音を立てる。
「去年?」
「なんだいお嬢ちゃん。知らないのかい? まぁ、お嬢ちゃんは知らなくていいことかね。知ったって嫌な気持ちになるだけさね。とにかく間違ってもあそこに行こうなんて思うじゃぁないよ。あそこに行った子どもの末路なんて決まって不幸さ……それよりも今日は祭りだから、ほらお友達も無事に買い物が終わったみたいよ」
振り返るとソフィアが両手を高く振ってあわや転びかけていた。
「ほれ、こっちもちょうど出来上がったから。熱いうちに食べるんだよ、あとタレの飛び跳ねには気を付けるんだよ、せっかくの衣装を汚しちゃいけないからね」
「うん、ありがとう」
おばさんは焼き串を二本おまけに付けてくれ、それを小さい植物の葉で綺麗に包んだ後に大きな葉でもう一度包み込んでヘレナの手提げ袋に入れてくれた。
ヘレナはおばさんにもう一度お礼を言ってソフィアのもとへと駆けていった。
「もう、ソフィア。そんなに急がなくても私はどこにも行きませんよ」
「うん、ほらこっち!」
返事と行動が全く嚙み合っていないソフィアはヘレナの袖を半ば強引に引っ張って連行する。
「今度はどこに行くんですか?」
焼き鳥もとい焼き串を買った屋台の面する大通りを二人揃って北上していくとやがて大きな噴水が姿を現した。
『セントラル・ファウンテン』
高さは十m弱ありこの街だけではなくこの国でもトップクラスの噴水である。その大きさもさることながらこの噴水はもう一つ別の側面を持っていたりする。
通称『願いの噴水』、これに関しても読んで字のごとくこの噴水で願った願い事は叶うというものだ。このアレイスロアができるよりもかなり昔からこの地に存在しており、その時から度々不可思議な話があったりもする。
「ヘレナ、合格祈願をしましょうよ。ここで願った願い事は必ず叶うってもっぱらの噂なんです。物は試しと言いますし、ねがっても損は無いじゃないですか」
「もう、回答を変えることが出来ないんだから今更願っても仕方ないのでは?」そうは思っても、この場でそれを言うほどヘレナは空気の読めない訳では無い。黙ってうなづいたヘレナを見てパァーっと顔を輝かせるソフィアは自分の財布から金貨を一枚目取り出した。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってソフィア。なんで大金貨を投げ入れようとしてるの」
「だって、金貨の価値が大きくなればそれだけ願いも叶うって」
ちなみにこの国で一番価値の低い金銭は銅貨、銅貨十枚で銀貨、銀貨十枚で金貨、金貨十枚で大金貨、大金貨十枚で白金貨、一応それよりも上にユークリアス大金貨というものが存在しているがその存在自体が伝説のようなもので価値としては国一個を丸々買えるほどと言われている。当然そんな代物が一般で流通するはずもなく、そもそも大金貨ですら普段の生活では使用することがないほどに高価なものだ。
「それは売り文句でしょ。投げ入れるならせめて銀貨にしよう? 何より大金貨なんて投げ込んだら色々と問題があるって。スリとか誘拐とかに遭いかねないからさ、ね?」
必死に止めるヘレナにソフィアは不思議そうに首をかしげていたが仕方ないといった様子で銀貨を五枚ほど噴水に投げ込んだのだった。
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