第四十七話
「ヘレナは何を願ったんですか?」
結局ソフィアの勢いに押される形でヘレナもまた噴水へと銀貨を投げ込んだのだった。幸いサリーナのおかげでヘレナたちの財布は潤っていた、とは言え銀貨とはいえどこの世界ではそれなりの大金ではある、ソフィアがここで銀貨を五枚投げ入れるというのは日本でするお参りに五千円を投げ入れるという行為と大差ない。別にそれが悪いとは言わないが神社で賽銭を投げるならまだ祀る神様がいる、大してここはトレードマーク、ひとつの観光名所に過ぎない。そんなことを考えてか、ヘレナの顔には若干の戸惑いがうかがえた。そうして何となく自ら投げ込んだ銀貨を目で追っていた。
「こういうのって言わない方が叶うんじゃないの?」
「言った程度で叶わなくなっちゃうならどのみちその程度ってことです。それにこういうのは叶う叶わないではなくて願うってこと自体に意味があると私は思います。まぁ、大きくても小さくても叶った方がいいのは言うまでもないですけどね」
「うーん、ならやっぱり私は言わない。楽しみはとっておかなきゃね、叶った時に叶ったぁ、って喜びたいから」
「……そうですか。残念ですけど無理に聞き出すのも違いますしね。とりあえず、それを食べましょうか」
ヘレナの手提げ袋を指さしてそのまま近くのベンチを示したソフィアに「そうだね」と返したヘレナは手提げ袋から焼き串の包を取り出す。
二人並んでベンチに腰かけおばさんがくれた布巾を膝の上で広げる。ヘレナが包を開くと中からは香ばしい香りが湯気となって舞い上がった。
そうして二人でまだ少し食べるには熱い焼き串をハフハフと頬張ったのだった。軽く下をやけどしながらヘレナはソフィアに「次はどこに行くの?」と問いかける。
「次はヘレナが決めてください」
「いいの? 昨日ソフィアが言ってた行きたい場所、まだ全部回ってないんじゃないの?」
「さすがに一日では回りきれませんから。今日は特に行きたかった所に行ったんです、だからヘレナも行きたい場所を言って」
ソフィアだけが行きたい場所に行くだけでは不平等だ、ということなのだろう。しかし、ヘレナにはこれといって行きたい所があるわけではなかった。何よりこの街、特に貴族街のことを未だ全く理解していないこともあってどうすればいいのかと顎を軽く撫で頭を左右に傾ける。
「あっ、なら景色のいいところに行きたいかな。例えばこの街を一望出来るような」
「いいですね! そうなると……サムラスの丘かギルメットの展望台がいいと思います」
『サムラスの丘』はアレイスロアの北東にある丘である。丘とは言っても標高はそれなりにあり山頂からはアレイスロアを見渡すことも容易にできる。
『ギルメットの展望台』はギルメットという魔法使いが一晩で作り上げたと言われている貴族街の北にある展望台、ではあるが実際のところ展望台と言うよりかは塔である。高さは十五メートルにおよび外周は百メートル近くある。全部で十階ある建物はグレイスロアでも有数の高級ホテルとなっている上に昇降機、いわゆるエレベーターが備え付けられていてこれもまたギルメットにしか再現ができないと称されている。
「なら、その二つに行こうかな」
「となると次はギルメットの展望台ですね。ちょうどここからも近いですから、ほらすぐそこです」
ソフィアの指さす先には他の建物の屋根を突き抜け雲まであろうかという石造りの塔が堂々と佇んでいた。
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