第五十五話
雷を刀身に纏った刀と刀身に炎を宿した剣が激しく切り結び甲高い金属音を響かせる。同時に刃と刃がぶつかるたびに火花の代わりに軽い爆発を引き起こしている。
今に至るまでの数分間の斬り合いでは互いに切り傷こそないものの既に二人は満身創痍となっていた。至近距離で爆発を受けているため衣服や焼け焦げているし衣服がないところは言わずもがなである。それぞれの利き手は爆発の衝撃に熱風の高温が追い討ちをかけるように襲いかかっており既に痛みという感覚が意味をなしてない。自らの手が刀を、剣を握っているのかすらも今の二人にとっては既に曖昧だった。
ただ形勢としてはサリーナの方が有利のようだった。立っているのがやっとといった様子のゲイルに対しサリーナはまだ息が切れる程度ですんでいる。
しかし、どれだけ表面や表情に出なかったとしてもダメージ自体は確実に二人の体に蓄積されている。このまま戦闘が続くことになれば戦況がどう転がるかは予測は出来ない。
それはサリーナもよく分かっていることだった。
「やはり、私には人を見る目がないようです。正直、あなたがここまで強くなっていようとは……」
「……へっ、そうだろう。お前がいなくなった後も俺は強さを求めた、求め続けていた。俺には強さが必要なんだ。だから、こんなところで―――くっ」
言い終わらぬうちにゲイルの体勢がぐらりと揺らぐ。踏みとどまろうとする彼だったがもう既に体は限界を迎えているのだろう、数秒の我慢も虚しく膝が折れる。
「っ―――まだだ、まだ、こんなところで」
「もう、終わりにしませんか。これ以上は無意味でしょう、正直私はあなたを殺したくはないんです。ただ、このままでは間違いなくあなたは死にます、私が殺す前にあなた自身の技に喰い殺されて…………ねぇ、あなたはその技を誰から教わったの?」
荒い呼吸を繰り返すゲイルにサリーナは静かに問いかける。彼女は彼の使う剣に炎を纏わせる技をよく知っていた。いや、よく知るなんてものでは無い、それに関しては知らないことは無いと言っても過言ではないという程に知り尽くしていた。何を隠そうサリーナが使う『纏雷』は彼が使った『
「そうか、お前はこの技を知っているのか。いやまぁ、俺とお前が前線で活躍していたのはほぼ同時期だから不思議はないか。なら俺が答えるまでもなくお前は既に感づいてるんじゃないのか」
まだ諦めるつもりは無いと再び立ち上がるゲイル。
「バルトホルン……いや、サリーナ。お前は何の為にそこまでの強さを手にしたんだ。どうしてそこまでの強さが必要だったんだ。どのみちこれで最後だ、それくらい答えてくれてもいいだろう」
立ち上がった彼はしっかりとサリーナの目を見据えてそう言った。その瞳を見てサリーナはため息をつく。
「別にいいですけどこれと言って大した理由がある訳では無いですし面白くもないですよ…………そうですね、強いて言うなら今を生きていくため、ですかね。当時の私が生きていく為には冒険者になるしか方法が無かった、もしも仮に他の道があったのなら私は冒険者なんかでは無くその道を選んでいたはずです。冒険者なんて―――」
「なるほどな……つまらねぇことを聞いた」
サリーナの言葉を遮って剣を構え直したゲイル。
「聞いておいて話を遮らないでくださいよ。とても、失礼ですよ」
「俺にとって聞きたいことは聞けたからな。何より俺は聞きたくないことは聞かない主義だ」
そう言った彼を見て再びため息をこぼしたサリーナだったがその顔にはさっきまでの気迫はなくどこか今の会話を懐かしむような優しい表情をしていた。
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