第九十四話
誰一人として喋ることなくただ二人を眺める異様な光景がしばらく続く。
息をするのも憚られる中レギウスが静かに右手を掲げると闘技場の雰囲気はさらに張り詰めたものとなる。
「始め!」
鋭く手を振り下ろされたレギウスの合図と共に両者とも揃って地面を蹴る。
十メートルというその距離が噓のように一瞬で互いの距離が詰まる。
初撃、ラクスラインは大剣を大きく振り上げ迫るソフィアに向けて叩きつける。
対するソフィアは彼より一歩踏み込んで頭上から来る大剣の側面を穂先で弾き軌道をずらす。そして大剣の
思いもよらない衝撃に僅かに体勢を崩すラクスライン。普通の相手であればそこで試合は終了していた、がソフィアの槍がラクスラインを捕えることはできなかった。ラクスラインはとっさに地面に刺さった大剣を逆手で掴み捻った体の勢いで地面もろともそれを思いっ切り引き寄せる。
鈍い金属音が響き同時に大剣が舞い上がらせた土煙が四方へと散る。
「―――驚いた、まさかここまでとはな。油断したつもりはないがどうやらまだどこかであんたのことを見くびっていたみたいだ」
それまでとは打って変わってラクスラインの表情が厳しいものへと変わる。彼の一言に答えることなくソフィアは再び彼との距離を取る。そして大剣を地面から引き抜く彼を片目に槍に添える自分の右手を見下ろした。
(冗談じゃないです。どういう反射神経してるんですの、あの状況からでも私の槍を受けきるなんて。下手したらあのレギウスという人よりも強いのでは無いですか。いえそれよりも気を付けるべきなのはあの力ですか。まだ手が痺れてます、弾いてこれですからこのまま真っ向から受け続けては決着がつく前に私の手がどうにかなってしまいますね―――となれば取れる手段は限られますけど何の対策も考えてないとは思えないですね)
じりじりと位置を調整しながら睨み合いを続ける二人。
そんな二人をよそに再び闘技場は歓声で湧き上がる。
次に動いたのはソフィアだった。先程よりも数段速度を上げてラクスラインに肉薄する。穂先を下段に構えて突撃するソフィアに対してラクスラインは瞬時に大剣を地面に突き立てる。
次の瞬間、鈍い金属音とともに火花が散る。
ラクスラインは大剣の腹でソフィアの穂先を食い止めた。
交錯する二人の視線、その中でラクスラインはまるでソフィアを挑発するかのように笑みを浮かべた。
その後も互いに一歩でも間違えば致命傷になりかねない攻防戦、闘技場の熱気は今、最高潮を迎えていた。
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