第百二十七話
「……私ってそんなに考え無しに見えます?」
その質問、当然ラクスラインには答えることが出来ない。いや、答えることは出来るのだが答えた場合を考えるとここではお茶を濁す方がもっとも得策なのだ。
だからこそラクスラインはさっきから空になったカップを執拗に口元で傾けているがその程度で追及を諦めるヘレナではない。その視線にラクスラインも苦悶の声を漏らす。
そんな無言の闘いの傍らでソフィアはつい今しがた運ばれてきた念願のパフェを手元に引き寄せる。
細く縦長いガラスの容器にはまるで虹でも架かったように色とりどりのフルーツが所狭しと詰まっている。
唸り声をあげるラクスラインのその意図を汲んだのかパフェのクリームに長いスプーンを突き立てながらソフィアが口を開く。
「考え無しというよりか、無条件に人を信じすぎという方が正しいかもです」
ソフィアの一言にラクスラインも助かったと言わんばかりに慌てて首を縦に振る。
「うーん、無条件って訳でもないんだけどなぁ……少なくとも私的にはラクスラインさんは信用に足る人物だと思ってますしそこそこ常識的な人ですから仮に連れて行っても問題なんかは起こさないと思ったんですけど、違いました?」
「ヘレナァ〜、そんなに簡単に男を信じちゃメッ!」
少し間延びした声でそう言ったカサンドラは立ち上がって机の縁を辿りながらヘレナの隣へと足を進める。明らかに様子のおかしいカサンドラにヘレナとソフィアは心配そうに顔を見合わせる。しばらくしてから何かに気がついたラクスラインはしまった、と額に手を当てた。
呆然とカサンドラを見ているヘレナにたどり着くと彼女はおもむろにヘレナの手を両手で掴んだ。
その瞬間僅かな違和感がヘレナに走った。
「う〜ん、よく訓練されたいい手だね。これで私の半分もいってな〜いんだから、にしてもあったかぁい」
ひとしきり手を撫でたかと思えば今度はヘレナの太ももに顔をうづめる。驚くソフィアと急いで止めに入ろうとするラクスラインを片目に状況が掴めないヘレナは何となく目の前にある頭を優しく撫でる。そうすればカサンドラはまるで猫のように甘えた声をあげる。
「ヘッレナ〜、私も明日行きたいのですのだが?」
会話に脈絡もなくところどころ呂律が回っていない、というかそもそも言語能力にまで影響が出ている。ここまでいけばさしものヘレナも現状を理解する。そして、胸の内で感じていた僅かな既視感にも納得がいった。
その様子はヘレナがよく知る人にそっくりだったのだ。
「お酒、飲んだんですか?」
ただ、ここはバーでもなければ居酒屋でもない。普通に考えて飲み物の欄にお酒が入っているということは無いだろう。
「すまん、ヘレナ嬢。すぐにひっぺがすから、いっつもこうなんだ。というかどこに隠し持ってたんだ?」
あまり強引にカサンドラのことを引っ張れないラクスラインではヘレナもとい彼女のドレスから彼女を剥がすことはなかなか出来ない。
「良いですよ、慣れてますから……あの、メニュー貸してくれます、あとお水」
そう言ってヘレナは擦り寄るカサンドラの頭を撫でながらタイミングよく階段を上がってきた店員を呼び止めたのだった。
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