第百五十一話
ヘレナのいれた紅茶を飲んで一息つくとリブライトは再びヘレナの正面に腰掛けて本題の件を話しだした。
「んで、ヘレナへの頼み事だ。さっき話したようにレイテのことも含めてルーベル・クラリスの件で私は一度王都に行かなくちゃならん。まぁ、他にも理由はいくつかあるがともかくだ、その時に私と一緒に来てくれないか?」
まさしく予想だにしないリブライトの提案にヘレナは顔を上げて疑問符を浮かべる。その様子を見てリブライトはテーブル中央にヘレナが並べた焼き菓子をいくつかつまみながら説明を続けた。
「いや、考えてみろ。ただでさえ面倒臭い教師組合の堅物ジジイ相手に何時間も意味の無い質疑応答だぞ、そもそも伝えるべきことはすでに書面で送っているんだ。今更何を伝えろっていうんだ。あぁあ考えただけでも身震いが止まらん―――ん、これ美味いな、いやまぁ私のことはひとまず置いておこう。私がお前を誘っているのは何も私のためだけではない。というのもな、今回の交流戦の会場は六年ぶりに王都での開催になる。聞いた話じゃ今から色んなところでちょっとした催しが代わる代わる開かれているらしいからな。下見がてら王都を満喫するのも一興だろう、と思ったからだ。あぁ心配しなくてもこっちは公欠ということにしておくからな」
流石は父親と言うべきかリブライトはヘレナの疑問を聞かれる前に答えていた。とれなばヘレナが気になるのは一つしかない。
「王都、どんなところ何ですか?」
ヘレナの期待に満ちた表情に嬉しそうに微笑んだリブライトであったが顎を撫でるとしばらく考え込んだ。
「まぁ、歴史に関してはこの大陸でも長い方だろうな。それこそ王城は建国以来建て替えや移築もなくあの場所にあるっていうからな。まさしく王都の象徴的な存在だな、あと舞踏ホールまでは一般開放されていて基本的に誰であっても出入りができるようになっている。これもまた王都というかこの国の珍しい文化の一つだな、基本的に他の国の貴族は自分の屋敷に身分の低いものを招き入れない、入れたとしても応接間がせいぜいで進んで自分の屋敷の中を公開したりしない。まして王城を公開するなんていうのは他の国ではまず有り得ないこと、下手したら王族の命にかかわるわけだからな」
「そこまでしても公開する必要があるってことですか?」
「まぁ、少なからずは、な。この国は他の国よりも自分の国の歴史や文化を重視する、そしてそれは貴族だけでなく平民もそうだ。だからこそ貴族はそうした学びを積極的にふれ回るのが暗黙の了解みたいになっている。そもそもこの国の身分における優劣は他と比べてかなり異質だ……それにこれは他国への牽制でもある。とはいえ、その辺はヘレナの知らなくてもいいことだな」
テーブルの上の皿に置かれたクッキーを片手でつまんだリブライトは、ほい、っとクッキーを口に投げ込んで残り数枚を取り皿に移して紅茶と一緒に執務机へと戻った。
「あと挙げられるのは王都はべらぼうに広いってところか、大きさとしてはここの大体五から六倍くらいはある。ここも商業都市としては大陸有数の広さだが王都と比べれば霞むなんてどころじゃない。いろんな商会が王都に本部を構えるし何よりそれがその商会の影響力や格式に大きく作用する」
ほぇぇ、と感嘆の声を漏らすヘレナの様子を見てリブライトは少し安心したように背もたれにもたれかかった。
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