第六話
そもそも転生、より正確に言うのなれば異世界への転生というものは推奨されていない。
ただ全てがそのルールに収まるということはなく必ず想定外や例外などが起こる。偶然であれ意図的であれ輪廻の輪から外れる魂が存在するのだ。そういった魂を救済するための措置として彼女がここに存在する。はぐれた魂を他の世界へ統合し他の世界から別の魂を補完する、その過程において過不足を調整するという名目で転生者には前世の記憶と
でも、だからこそ彼ら彼女らは元の世界ではなく別の世界へと行ってくれるのだ。
そして何より、ヤエの前、この『転生の間』に魂が送られた時点で転生するのは必然、揺るがない事実となりそれと同時に元の世界との
「つまり、渚ちゃんのいた世界に渚を戻すことは出来ないんだよ。それがここでのルールだからね」
「……分かりました。理解できていないことの方が断然多いですけどこれ以上ここに私がいてもあなたの迷惑になるだけみたいですし、大人しく従うことにします」
(きっと茜ならこういう状況でも楽しめる、というか茜はラノベとかそういった感じのが好きだったし喜んで転生するんだろうな……私のことなんて考えもしないのかな? だとしたら少し寂しいな。いや、そもそも私は何でここにいるんだろう……茜や桜も同じような状況なの?)
思い返してみると渚は自分がここにいる理由、ひいてはここへ来てた原因を知らない。きっと言うまでもなく日本のごく普通の高校生だった渚は死んでいる。わかることはせいぜいそれくらいだった。
でも、ここに来るまでにいわゆるテンプレ的なことは一切経験していない。通り魔に刺されたりや交通事故から誰かを救ったり、突然魔法陣が現れてとかそういったイベントは一切なかった。渚の記憶の中にある茜から教え込まれた異世界転生ものではそういった何かしらが必ず起こっていた。
「さて、ようやく本題だ。よっと、渚ちゃん、これに答えてくれたまえ」
そうしてまた何もないところからバインダーと鉛筆を取り出し渚の座る椅子の隣、これまたいつの間にか出現していた小さな机の上に置く。
「異世界、アンケート? 何ですか、これ?」
何やら駅前でやっているよな街角アンケートのようないくつかの項目が
一枚目には異世界に関する簡単な知識とアンケート、二枚目からは名前、性別、容姿、種族、身分、スキル、目的、偉業、伴侶、等々。後半三枚はいわゆる契約書、転生における様々なルールが表記されているようだった。多少、いや大分気になるところがいくつかあったが何となく面倒くさそうな雰囲気を感じ取って渚は出かかった質問を飲み込んだ。
「それが、異世界での渚ちゃんをある程度形作るもの、くれぐれも慎重にね。その紙の第一項にある通り一度書き記したものの変更はできないから、本当にくれぐれも慎重に。説明とかは書いてあるけど分からなければ言って、説明するから」
(でもこれ、何を書けばいいの。名前や性別に関しては分かるにしても種族や身分って、というか伴侶って何? 夫的な意味合いでいいの? そこまで決めちゃったらつまらなくない、偉業や目的だって自然と成し得るものでしょ。得ることが決められてる偉業って本当に偉業なの? ってそんなこと考えても……ん?)
パラパラと紙をめくって流し読みしていた目がある項目で止まった。
「あの、転生特典項目のランダム化? って何ですか?」
「あぁ、それはすべての項目がランダムに決まるんだよ。ある種運試し? ほらゲームでよくあるガチャ的な、そんな感じ」
聞いて呆れるほど曖昧で容量を図り得ないヘラヘラした説明に渚は一つ溜息をこぼした、がどうやら彼女はそれに決めたようだった。あるいはただ単に面倒になっていただけなのかも知れないが。
「まぁ、何がいいとかわからないですしランダムでいいです」
「では、貴方を異世界へと転生させます。貴方の人生が幸福に溢れるようにここから祈っています」
ヤエのまるでテンプレのような一言の後、渚の視界は再び暗転したのだった。
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