第百四十三話

「まぁ、このまま関係ない話をしてるのももったいないだけですので早速授業に入りましょうか」


 驚くを隠せない様子の教室の空気を全く気にすることなくくるっと踵を返して教壇へと舞い戻ったレイテシアはチョークを握って黒板に文字を書き始めた。


『魔法とは?』


 深緑色の黒板に書かれた白いその言葉に一同は揃って首を傾げる。


「魔法というものの起源は数千年前まで遡ると言われていますね。数千年前、私も全く想像はつかないですがその時は人類がこれまでにないくらいの危機にあったとされています。私が知っている最古の文献には人類が災いに立ち向かう為に精霊が託したもの、人が人でありながら魔を倒す力なんていうふうに記述されています。ただ、それが今の魔法かというとそれはまた違います。人類が滅亡するような厄災は起きていませんし倒すべき魔が人だったりする訳ですからね。では今の魔法とは何なのか、結局のところそれが分かっていない生徒に魔法を教えても意味はありませんし何より危険でしかない、ので今から皆さんは魔法を学ぶ意味を考えてください。というよりもなぜ学ばなくてはいけないのかという何かしらの目標を立ててください」


 ざわめく教室の中でクレアはまっすぐにレイテシアを見据えて手を挙げる。


「それって何でもいいんですか? 例えば、身近な人を追い抜きたい、みたいな……」


 少し不安げなクレアは恥ずかしそうに右頬を軽く掻く。だんだんと尻すぼみになり静かに俯いたクレアを見てレイテシアは嬉しそうに微笑んだ。


「構いませんよ、それも立派な目標ですから。ただ、どうやって超えたいのか、そこにどのようにして魔法を絡めるのかといったことは常に考えておいたほうがいいですね。そうではなくては私の教えることには意味も理由もありませんから」


 そうして再び教室を見渡して「皆も言う必要は無いけど一つ絶対に譲れない目標を持っていた方がいいですよ、魔法に限らず人生においてもね」、と笑顔のまま続けた。


「ヘレナにもあるの? そんな目標?」


「なんていうか、言い方に棘を感じるんだけど……言っておくけど別に隠してたわけじゃないんだからね、聞かれなかったし言う機会もなかったから言わなかったわけだし、そもそもここの教師になってるなんて私の方がどうして? って聞きたいくらいだよ―――ってそうじゃなかった目標だったよね、確かに私にも目標はあるよ。まぁ、クレアに比べたら漠然としているなんてものじゃないけどね」


「教えてくれないの?」


 物憂げな表情のソフィアにヘレナは大きくため息をこぼす。


「ソフィア、その言い方はずるいと思うんだけど……でもまぁ隠しておくことでもないけど笑わないのが約束ね。私の目標、というか夢はね―――」

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