第百四十四話

「―――さて、そうしたら皆が私から教わりたいこと……ですけど、聞くまでもなさそうですね」


 微笑んだレイテシアはわざとらしくそう言うと自分の顎を軽くなでる。そうして目の合ったクレアに質問を投げかける。


「クレアスノールさん、無詠唱魔法ってなんですか?」


 突然の質問に慌てて周囲を見渡すクレア。

 ただ、当然指名された質問に他の生徒が答えることは無い。


「……えっと本来、詠唱の必要な構築文を声に出すことなく発動させること、です。声に出すことがないから詠唱の始めが分からなくて、その内容は打ち出されてからでなくては分からない。えっと、だから戦闘、とりわけ対人戦で使えば無類の強さを誇ると言われている詠唱魔法よりも一段上の魔法の形態。ただ、そんなものは当然誰にでもできるわけではなく大抵の場合は発動させるのに詠唱魔法の倍以上の時間がかかり何よりも構成中に少しでも意識を逸らせばたちまち大惨事と安全性が乏しい」


 最初こそ言葉に詰まっていたクレアであったが説明をしていく中で本来の様子へと戻っていった。


「はい。では、詠唱とはなんですか?」


 そんなクレアに同じように質問を繰り返すレイテシア。今度はクレアも迷いなくその質問に答える。


「体内の魔力を変換して魔法として発動させるための手順書。より正確に確実に魔法を発動させるためにはこれが必要となり、その技術は魔術にも応用されている。また、研究者により日々より早く、いうなれば無詠唱魔法に近づけるように研究が続いている……でいいですか?」


「はい。流石はセレスティアの娘さんです。魔法と詠唱に関しては私が教えるまでもありませんね」


 分かっていたように頷いたレイテシアは満足気に息を吐いてチョークを黒板に軽く数回叩く。


「そこで最初の質問に戻るわけです。『魔法とは?』」


「……精霊が授けた人が人でありながら魔を打倒する力」


 クレアも不思議そうに首を傾げ一同が口を閉ざす中、ヘレナがポツリとそう呟いた。

 当然そうなれば皆の視線は彼女へと集まる。それは追加の説明が必要であるということをヘレナにありありと訴えかけていた。


「―――え? これ私が説明しなくちゃいけない感じなの?」


 チラッとレイテシアに目線を移すヘレナであったが彼女から援護は期待できそうにはなかった。


「えっと、つまり大昔は魔法は便利な手段じゃなくて生きる為に必須の手段だった。人類が滅びかねない世界で一秒を無駄に出来ない戦場で詠唱なんて唱えている暇は無い……」


 そこまで言って、ヘレナの言葉が不意に止まる。それはクラスメイトたちがさらに疑問の表情を浮かべていたからであった。


「ヘレナ、どうして戦場なんて言葉が出てくるのですか?」


 それまで隣で黙って話を聞いていたソフィアがそう口にした。

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