第三十七話
「そうです、ヘレナさん。今度は私の家に来てくださいね」
ヘレナが自室に通すとソフィアは嬉しそうに振り返りながらそんなことを言い出した。
「……もう次の話ですか? 私としては構わないのですけど」
そんな話をしているとレナリアがノックとともにドア越しに「紅茶とおやつのマフィンをお持ちしました」と、告げた。
「入っていいよ」
しかしいつまで経ってもドアは開かなかった。不審に思って二人が顔を見合わせていると消え入りそうな声でレナリアが呟いた。
「ヘレナ様。申し訳ないのですけれどドアを開けていただいてもよろしいでしょうか……その、両手が塞がってしまっていて」
「はいはーい、ちょっと待ってね」
そんなふたりのやり取りを見てソフィアは再び首を傾げる。
「……ヘレナさんは従者の手伝いをするのですか?」
ヘレナは扉を開けて振り返りながら苦笑いをこぼす。
「うん、普通は従者が全部やるべきなのでしょうね。ただ私たちは純粋な貴族とは違うという立ち位置になってますから、形だけ主人と従者になっていればいいのです……」
「ヘレナさんって嘘つくの苦手ですか?」
レナリアと一緒に紅茶を用意する傍らでするりと挟み込まれた鋭い指摘にヘレナは驚いて目を左右に泳がせて、やがて諦めたようにため息をついた。
「……はぁ、やっぱりそうなんですかね。昔からバレなかったことがないんですよ。はい、今のは嘘、というよりも建前でしょうか。本当は嫌なんです。私は何もしてないのに評価されるのが。だから私から頼んでいるんです、なるべく普通に接してほしいって」
「なら、ヘレナさん。私に対しての話し方を変えてください。私たちは友達なんでしょう、なのに上下関係がはっきりしてるみたいな喋り方はいりませんよ、何より私も評価されるようなことはしてませんから」
一本取ったといわんばかりにドヤ顔のソフィア。
そばで聞いていたレナリアも優しく微笑み、というよりも吹き出しそうになっているのを我慢しているといった感じだ。
「分かり……分かった分かったからあなたがそんな顔しないで。なら私のことはヘレナって呼んでよね。私だってソフィア……って呼ぶからね。あと、レナリアはおしおきです」
「いえ、それよりもヘレナ様……」
「どうしたの? 私、そんなに面白い顔をしてる?」
じーっとヘレナのことを見ていたソフィアとレナリアが心配そうに問いかける。不思議に思ったヘレナは自分の顔に手をあてて、ふふっと笑い出した。
それもそうだろう、目の前で突然涙を流しながら笑っていたら誰だって心配になる。
「いいえ、違いますよ。ただ、懐かしかったんです。どうにもソフィアといると昔の友人のことを思い出すんですよ、奥手な私になりふり構わず突っ込んでくる感じがそっくりで、ふふ、あはは。ソフィア様、いいえソフィア、私、あなたに会えて良かったです」
右手で頬を伝う雫を拭って満面の笑みでそう告げるヘレナ。
ソフィアは恥ずかしそうにそっぽを向いて嬉しそうに紅茶を一口飲んで「私もですわ」と小さく呟いたのだった。
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