第百六十五話
この学院には様々な人が集まります。
それは前々からお父様に聞いていました。だからそれに対して今更驚くようなことは特にありません。ヘレナのような天才や、クレアさんのような変人、ラクスラインさんのような武人でしたり、グレイさんのようなつかみどころのない商人、などなどその多種多様さには確かに今までの常識は当てはまりません。
そして多分というかきっと私だって傍から見ればそちら側に分類されるのでしょう。それについても別に異論はありません。事実、私ことソフィア・フォン・カトラスは、その中身は異常です。
「それは間違いなくヘレナさんから聞きたことですからね」
グレイさんは知りません。勘づいてはいるのかもしれませんが彼女は私以上に人と話す時に感情を表情を隠します。
ただ、それでも分かることがあるのも事実です。こうして彼女が今も私に向けている笑顔は私ではなくソフィアに向いているのです。
「なら、頑張らないといけないですね」
「そうですよ。ヘレナさん曰く、ソフィア様とクレアスノールさんは必要不可欠な存在だそうです。なんでも、二人のそばは居心地がいいってとてもいい笑顔で話していましたから」
その時のヘレナの様子を思い出しているのでしょうか、グレイは羨ましそうに私を見て微笑むのです。
「さて、これ以上は不公平ですからね。今回はこの辺りでお開きとしませんか。なんならソフィア様はヘレナさんと過ごす時間も長いのですから、直接腹を割って話してみるのもいいのでは?」
「───それもそうですね。今日の放課後にでも聞いてみることとしますの。貴重な時間をありがとうございました。とても有意義な情報交換になりました」
多分、グレイさんは聞けば答えてくれるはずです。でも、あえて言わないというのは私自身が直接聞いた方がいいとこだからでしょう。
それ以前にあれだけヘレナと仲がいいのだから私なんかではなく本人に聞け、ということなのでしょうね。
「……それでも、聞にくいこともあるのです」
ポツリと溢れ出た独り言に私は慌てて口を塞ぎますがとっくに読書へと戻ったグレイさんには私の声は聞こえてはいないようでした。
胸を撫で下ろして図書館の出口へと足を進めるといつの間にか司書さんは職員室から戻ってきていたようでした。気だるそうにカウンターに左肘をついて返却されたであろう本に落丁が無いかを確認しているようでした。
ただ、そばを通り抜けるというのも気が引けるので私は軽く会釈をすると、司書さんは普段は見せない笑顔を私に返すのでした。
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